戦場に乗せる対価は等しからず
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異質な武力を持つ存在。英雄として謳われる彼は意地とプライドに溢れる男達の指標にして絶対の指針。男の在り方に発破を掛けるそのやり口は、いつでも兵士達を駆り立て狂わせる。
張コウ隊を使うにしても、親衛隊の異常な士気にしても、である。
ああそうか、と納得がいった風は冷たい色を瞳に広げた。
「季衣ちゃん達には少し酷かと」
「部隊を率いる将になりたいのなら乗り越えねばならん壁があるからな。あの二人はまだ伸びるぞ」
「その為の犠牲、ですか」
「ああ、私達の手は……」
掌を広げて、自分の前に翳してじっと見つめた。
憐憫か、寂寥か……ゆらゆらと揺れる黒に含まれる感情は幾多。風も倣って、自分の掌を開いて見つめる。
「掴めないモノがあって、切り捨てなければならない時もあるのだ」
何一つ取りこぼしたくない。それは傲慢で、欲深い願望。
兵士達にとっての隣の兵士は季衣にとっての流琉、春蘭にとっての秋蘭、風にとっての稟。
自分達が生きる為に他人の命を捧げて、そうして望む世界を掴みとる。誰彼かまわず守れるモノなどいやしない。
「例え誰であろうと……それが乱世の哀しい理」
思い浮かべるのは覇王の王佐。桂花は嘗ての親友を策の一環として用いて主の為に捧げてみせた。それはどれほど、苦悩の選択であったのだろうか。
自分達が組み立てた戦絵図であるのに、桂花は風や稟を怨みもしない。痛みを伴いながらも前に進む彼女を想って、風はすっと目を瞑って懺悔を示す。
「そんな事態にしないのが我らの仕事だ」
「……そですねー」
これから将を目指すのなら、本当の意味で自分達がどうやって戦っているかを知ってほしいと、春蘭は戦っているであろう妹分に想いを馳せてギュッと掌を握りしめ、またグビリと酒を流し込んだ。
†
予定通りに烏巣に曹操軍が部隊を分けて進軍を開始した。その報告が入るや否や、麗羽の行動は迅速であった。
距離と時間を計算した上で、引き返して戻って来るころには官渡を落とせるように、陽武の守りを最低限に抑えて進軍を開始していた。
数は力だ。軍に動揺は無く、勝利を信じてただ戦う。二枚看板が士気を上げ、大将自らの出陣という事もそれに拍車を掛けている。
先の戦いによって主力兵器の数を減らしているし、袁紹軍の方にはバリスタの数はまだあった。潤滑な資金援助と事前準備の賜物であろう。
確かに投石器や投槍器の威力は脅威だが、対策法が確立され、数さえ減らしてしまえば通常の攻城戦に持ち込める。奇策である落とし穴も、使われた後では兵列さえめんどうだが、矢避けに使えるのだ。
袁紹軍に対して、曹操軍の防衛は兵数が少なく、どうにか持っているといったモノ。土嚢を積み上げて城門を塞ぎ、少ない兵器と矢で
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