戦場に乗せる対価は等しからず
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ろうなぁ」
嘗ての自分に向けての言葉は、確信を持って口から零れる。
部隊を使うならそう言って先頭を駆けるだろう。そうして一人でも多く救いたいのだと分かっていた。
「んなこたぁ俺には言えないね。だって俺は、黒麒麟じゃない」
どれだけ戻りたいと願っても、彼は“彼”に戻れない。
皆が望んだ英雄には、黒い道化師は成りきれない。
「だけど俺は……黒麒麟になりてぇんだ。たった一人の女の子の心を救うために……そんで、世に平穏を与えたいから」
その為ならば、例え何であろうと生贄に捧げよう。自分という存在さえ、消えてくれても構わない。誰の命も、厭わない。
ズシリ、と音が鳴った。彼の前で、幾重もの音が収束されて鳴った。
大地に突き刺さるは剣と槍。
怒りか、悲哀か、絶望か……否、否。突き刺したのは誓いゆえ。今の彼が、自分達と同じだと認めたが故に。
黙して語らず。傷だらけの男達が並んで彼をじっと見据えた。彼ら全ての頬には涙の跡。噛みしめる歯は、叫んでしまいそうな喉を押し込めるようにと。
「だからよ、お前ら……いや、黒麒麟になりてぇ大バカ野郎共」
自然と、彼は笑った。より不敵に、楽しげに。自分と同じモノ達に向けて。
眼前に並ぶ男達は……その数、三千弱。
袁家を絶望に落とし続けてきた、黒の為の兵士達であった。
我らはなんぞや。彼が“彼”でなくとも――
――我らは違わず、“黒麒麟の身体”なり。
「俺と……並び立って戦ってくれ」
弾ける声など無い。怒りの声も、怨嗟の声も、悲哀の声も、上げなかった。
彼らはただ、応……と短く重く返事を口にした。
官渡の戦いの最後に赤と黒が動く。
袁紹軍の絶望は、より色濃く染まっていた。
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