戦場に乗せる対価は等しからず
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パチ……パチ……と定期的に爆ぜる音。ゆらゆらと燃える朱色の炎。煙は高く、赤く映える天に上る。
黒と赤が並んでいた。幾多の感情が渦巻く視線を携えて。
赤は炎を眺め、黒は煙を追っていた。
紅揚羽は此処にはいない。最愛の少女、その命を喰らって生きると約束した少女が居るだけ。
小さな後姿に、不敵さの欠片も感じ取れないその背中に、兵士達は懺悔と無力を噛みしめて視線を向ける。
「……これでお前らの大事な軍師は、ただの肉袋として腐らず、天に帰る」
赤が望んだ。彼女の身体を腐らせたくないと。崩れるのも許せないと。土くれになど還したくないと。
儒教社会で受け入れられない行い。しかれども、張コウ隊は気にしない。
夕暮れ、朱色の空は美しい。彼女はソレになるのだと思えるが故に。
「だが……あの子の想いはお前らの胸の内に。
……黙祷と共に繋ぐことを誓え」
皆、誰も目を開くモノはいない。彼女の姿を胸に刻み込み、思い出と共に心に仕舞う。
胸に宿すは平穏への渇望。そして……この弱くて哀しい赤の少女を救う為。
つ……と彼女が彼の服の袖を握った。震える手は、大きな手に包み込まれて安堵する。
親を殺した。そして今度は、大切なモノをも殺した。
本当の意味で全てを失い、空っぽだった自分だけが残った。彼女が縋れるモノは、残された想いを共に宿す彼だけ。
中身は与えられた。もう、彼女は人形では無い。
昔から願ったモノはカタチを変えて心にあった。
“彼女の為に、自分の為に”
幸せになれと、願われたから。
幸せになりたいと、願ったから。
彼女のように、もがいて足掻いて、掴み取ろうと決めた。
ゆらゆらと燃える炎と、夕暮れの朱色が世界の全て。赤の少女は漸くこの世界に生まれ出た。
コクリ……彼に小さく微笑んで、頷いて見せた彼女は手を離し、つま先立ちで、道化のように腕を回して振り返る。
赤く腫れた目と、涙の跡。されどもそこには、笑みがあった。
彼ら張コウ隊の見慣れた、戦場を住処とする紅揚羽の残虐な笑みが。
「あはっ♪ んじゃあバカ共、命を食い荒らしに向かおっかね♪」
悲哀など無く、食べたいモノを食べる彼女が其処にいる。
彼らは目を開き、同じような笑みを浮かべた。心の内に、彼女を絶望させた相手への憎しみを込めて。
応……という重苦しい声を聞きながら、彼だけは其処から離れて歩みを進めた。
一歩、また一歩と進んで行く先、ピタリと脚を止める。
大きなため息は呆れているようで、黒の眼光は昏い暗い光を放つ。緩く引き裂かれた口は楽しげであって渇いていた。
「きっと俺は、“いつも通り俺に付いて来い”とか言ってたんだ
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