戦場に乗せる対価は等しからず
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和は一矢乱れず。
『華々に光あれっ』
数十人の怒号に、百や千を越える袁紹軍は圧された。軍として、兵として、男としての在り方が違い過ぎた。
各隊の長が纏めようとするも、その堂々たる姿は武人のそれに等しく、近づこうとするモノは居なかった。
故に……彼らは嘲笑う。
腰抜けめ、生きたいなら、守られたいなら兵士になんざなるんじゃねぇよ……と。
小屋の中、掘られた穴から笛が鳴り、幾十人だけが持ち場を離れる。
残った者達はただ笑い。キリキリと構えられる矢の音を聞いていた。
――ああ、いいもんだな。これは
胸を透くような感覚。満たされる達成感。戦わずとも、殺されるだけであろうと、守れたという事実がただ嬉しい。
彼らに悔いは無く、漸く自分達の存在意義を示せるのだと歓喜していた。
射られる大量の矢によってハリネズミになる寸前、彼らは確信して笑みを深めた。
これで覇王は、俺達こそが親衛隊に相応しいと認めてくれるだろう、と。
彼女達は、残る奴等を守るでなく、主の為に戦う将になれるだろう、と。
官渡での第三戦闘は呆気なく終わりを告げた。袁紹軍の被害は相応のモノで、曹操軍は寡兵であったというのに大した損害は受けていない。
事前に物資を他に移送し、作り上げた兵器も全て壊し、官渡の砦の井戸も汚物を放り込んで潰していた。籠城に使う事は出来ない。
秋蘭、真桜、季衣、流琉、朔夜の五人は兵を率いて官渡からの脱出に成功した。
種は単純。真桜の掘った穴は脱出の為にも用意されていたというだけ。迅速にして適格な避難誘導を行える曹操軍であるからこそ、此処まで上手く抜けられた。
強力な兵器は目と意識を引きつける。落とし穴が使われた後だからと大地への認識は意識から外される。緻密に計算された奇手奇策の限りを使って、曹操軍の被害は想定以上に抑えられたのだ。
さらには、抜け穴の内部の暗闇を利用しての伏兵によって、探索にやって来た兵の大半が生き埋めになった。伏兵達自らが命を賭して道連れにして。
個人の命を使った策の数々に、袁紹軍は恐怖の底に堕ちた。
猪々子と斗詩の二人の士気はどん底と言ってもよく、明の裏切りの報せを聞いた麗羽は……官渡に兵を移さずに野戦で曹操軍との決戦の準備を進めるとだけ指示を出した。
着々と近付く官渡の戦いの終末。もはや妥協は、どちらの軍にもない。
そんな中、袁紹軍には二つの伝令が来る。
一つは、烏巣が落ちたという絶望の報せ。
そしてもう一つは……黒が齎す最悪の報せであった。
傷だらけで、絶望に堕ちて濁り切った瞳を携えた伝令は……紅揚羽の部隊の一人。憎しみすら籠る視線で伝えたのは……袁の王佐の死亡報告であった。
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