ヴェルーリヤ――石相におけるジェナヴァ――
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貧民区の人々の間にも、様々な噂話がある事ない事広まった。家々の戸口には、破られ、冒涜的な言葉が書き記されたルフマンの神印が撒かれた。それは、その家の者がヴェルーリヤを拒絶している徴であった。それでも彼は、自分を信じる者の為、自分を求める者の為、ジェナヴァの町を歩いた。
夜空の月が欠けていき、ヴェルーリヤの力が最も落ちる新月の晩、総督府からの使いが家に来た。
総督府内の施療院に来るよう、使者は言った。そこに、お前の力を必要としている者達がいる、と言う。その言を信じ従いながらも、見えざる糸が一層きつく自分を締め付けていくのを、総督府に向かう間中、ずっと感じていた。
施療院に一歩入ったヴェルーリヤは、内部の光景に言葉を失った。床に直接布が敷かれ、そこに横たわる人々が、五十、六十、いや七十……。
「来たか、ナエーズの神の使いよ」
高座には総督が、その下には施術師達が並んでいた。以前と同じ光景であった。違うのは、横たえられた熱病や怪我にうめき苦しむ人々の存在と、左右の側廊に立ち並ぶ見物人らの存在であった。
「近頃どうも、貴様に関するよからぬ噂を耳にするものでな」
「総督、お言葉ですが――」
総督は手を左右に振り、ヴェルーリヤの言葉を遮った。
「まあ貴様にも言い分という物があろう。何がまことか、何が嘘か、いちいち論を交わしたところで埒が明かぬ。もっと手っ取り早く白黒つけようじゃないか」
総督が手で合図をすると、左右に控える手の者が、素早く背後の幕を取り払った。果たして享楽の神ギャヴァンの神像と、その祭壇が露わになった。
「貴様の存在と行いの是非を巡り、民は対立し、心を引き裂かれておる」
髭を撫でながら、総督は話し続けた。
「貴様はジェナヴァの不和の源だ。そこでだ、本国が信仰を推奨する神の一つである享楽の神ギャヴァンの御前で、どちらの神が民に必要か、証明しようではないか」
ここに至ってヴェルーリヤは、何故病人やけが人や、施術師やジェナヴァの一般人が集められたかを、そして、何故よりによりて新月の晩に使者が寄越されたかを悟った。
「我が力は競う為、争う為、見世物にする為に与えられたものではございませぬ!」
「黙らんか! この私に口を利くならば、勝敗を征してからにするがよい。この大砂時計の砂が落ち切るまでの時を与えよう。それまでに、我が手の者より一人でも多くの民を癒やしてみせよ」
祭壇の脇に据え置かれた巨大な砂時計が、二人の人間の操作によって返された。
代表のギャヴァンの施術師が前に出た。彼が大仰な手振りでギャヴァンの神印を結び、太い声で祝詞を唱え始めると、眩い光が施術師の手許に集まった。
施術を行うのに、そのようなわざとらしい仕草が必要な筈もないが、日頃魔術を目にする機会のない見物人たちは、畏れぞよめ
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