ヴェルーリヤ――石相におけるジェナヴァ――
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引き立てられるために、楽をするために、誰かが自分の足を引っ張っているのではないか、そんな疑心暗鬼が満ちた。
ある晩、さる商家からの使いがヴェルーリヤの家に来た。跡取りの長男が酷い足の痛みに苦しんでいるから来てほしいと言う。ヴェルーリヤは救いを求める者があらばと、その富裕な商人の屋敷に向かった。
商人の長男は肉の塊としか言えぬ奇態であり、その姿にヴェルーリヤは目を瞠った。部屋の戸を通り抜けられぬほど肥え太り、もはや着られる服がないのか、裸でベッドに寝そべり、そのベッドは、壊れぬよう鉄で補強されていた。人の手を借りなければ排泄もままならぬと見え、下働きの者が汚物入れと共に部屋の隅に控えていた。それでも、長男はベッドの横のテーブルに並べられた大量の肉やパンや菓子を、来客を気に留めるでもなく、絶えず貪っていた。
掛け布をめくって足を見れば、痛むのも当然、その足は腐り始めていた。ヴェルーリヤは痛みを取り除いた後、自分ではなく医者を呼ぶよう家の主に進言した。長男には食を慎むよう言った。長男は失明しかけた目に不気味な笑みを浮かべながら、わかったようなわからぬような生返事をするだけであった。
用が済むと、主は金貨が入った小袋をヴェルーリヤに渡した。ヴェルーリヤは固辞したが、主は強引に、懐に押し付ける様にして受け取らせ、そのまま屋敷から閉め出した。ヴェルーリヤは困ってしまい、あれこれ思案した末に、下町を彷徨い、生活苦に涙を流す人々の家の戸口に一枚ずつ金貨を差し入れた。
「この両手は戻らんのですか。本当に戻らんのですか」
次の晩、荷車引きの老人が涙ながらに縋りついて来た。人々は懇願の裏に責めるような鋭さを隠した目でヴェルーリヤを取り囲んだ。なんでも、昨晩の商人がヴェルーリヤの施術を針小棒大に吹聴して回っているそうで、その話には彼が報酬を受け取った事まで含まれていた。話の中では、長男の腐りかけた足は癒え、目も明瞭な光を取り戻し、立ち上がって歩けるまでに回復した事になっていた。
ヴェルーリヤは一つずつ誤解を解こうと試みたが、報酬を受け取ったのかという問いには口ごもるよりほかなかった。受け取っていないと言えば嘘になり、本当の事を言えば、その金をどうしたかと問われるのは目に見えている。そして、こっそりと金貨を撒いた家の者が迷惑を被る結果は火を見るより明らかだ。
「結局、金なんだな」
荷車引きの老人はそう吐き捨てた。ヴェルーリヤは失望と怒りの視線に取り巻かれながら、自分が逃れがたい、見えざる糸に絡め取られていくのを感じていた。
労働者達はヴェルーリヤを偽善者と呼び、その晩以来、彼が宿舎に寄れば、砂をかけて追い払うようになった。彼らの体が放つ痛みに胸を引き裂かれながらも、近寄る事は許されず、ヴェルーリヤは彼らのもとから立ち去らざるを得なくなった。
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