第139話 孫権と甘寧
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なのは間違いありません」
愛紗は正宗の問いには答えず、軽く受け流した。正宗もそれ以上何も言わなかった。愛紗にとっては一時的なものであれ、恩人であることにはかわりない。だから恩人のことを悪くいうのは差し控えられたのだろう。正宗もつい口にしたこととはいえ、余計なお世話と感じたからこそ話を続けなかったのだろう。
「しかし、定公は武人と思っていたが中々のものだな。昨日は人足相手といえ、あの体術は老練さが冴える鎧袖一触であった」
正宗は話題を変えた。
「私も女将さんの腕前はかなりのものだと思います。以前、立会いをお願いしたのですが『面倒臭い』と断られてしまいました」
愛紗は饒舌に笑顔で正宗に答えた。
「この店の店員は凡夫には荷が重いであろうな」
正宗は笑みを浮かべ愛紗に言った。
「二人とも油売っていないで手伝っておくれ」
正宗と愛紗が歓談していると会話の話題になっていた呂岱が現れてきた。
「定公、美羽でも来たのか?」
正宗は空を眺めながら言った。太陽が空の真上に上がっている。この時間帯に来る可能性があるのは美羽だけだから、正宗は当たりをつけて言ったのだろう。
「違うよ。あまり見ない顔だから余所から来た奴じゃないのかね」
呂岱は正宗の質問に興味なさそうに答えた。正宗と呂岱は初めての出会いでは険悪なものであったが、今では馬が合うのか友人のような関係になっていた。ただ真名の交換はしていないため、本当に心を許している訳ではないのかもしれない。
「珍しいな。私が出よう。興味がある」
「正宗様、私がやります!」
愛紗は慌てて正宗の進行方向を塞いだ。愛紗としては正宗に接客をさせることは心苦しいのだろう。そのことが表情から伺えた。客足が多いならいざ知らず、この時間帯なら自分だけで十分と愛紗は思っていたのだろう。正宗はあまり気にしていないようだったが。
普段、正宗は調理場で呂岱の補助をし、客が増える夕方以降になると接客と配膳を手伝っていた。勤務してから二週間ということもあり、慣れない部分もあったが正宗は真面目に仕事をこなしていた。客とのいざこざの処理に関しては呂岱流の対応を行えばよかったため、正宗には慣れたものだった。美羽の襲撃犯を正宗一人で撃退したことを懐疑的に見ていた呂岱も正宗の手際を見てからは信用するようになった。
「愛紗は休んでおけ」
正宗は笑みを浮かべ愛紗を避けて進もうとした。
「できません! 私にやらせてください」
愛紗は負けじと正宗の進行方向を再度塞いだ。
「どっちでもいいから早くしておくれ」
呂岱は正宗と愛紗のやり取りを見て困った表情を返してきた。
「じゃあ、愛紗に頼む」
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