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異々、心葉帖。ことこと、こころばちょう。〜クコ皇国の茶師〜
プロローグ
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が好きか」
「お茶の葉がしゃべった!」
「って、そんなわけあるかい。こっちじゃ、こっち」

 突然沸いてきた声に驚いてしまい、瓶が蒼の手から滑り落ちていってしまう。きゅっと瞼に皺を寄せて耳に届くだろう音を待つが、いくら待っても頭の奥をひっかく振動は生まれない。蒼は恐る恐る視界を広げると、梅干みたいな表情で身体と同じくらいの大きさの瓶を抱えている小人がいるではないか。

「まぁ、光が見えるというのはつまり、声を聞いておるとも言えるがのう。発想が子どもらしゅうて可愛らしいことよ。おぬし藍と竜胆の娘じゃな。ほうほう、その年で既にアゥマを物理的に認識できるのか。」

 藍は母、竜胆は父の名だった。両親の名をいたく偉そうに口にして、しかも勝手に納得しているうえ「子どもらしい」とからかうように笑った小人。そんな小人に蒼は悔しくなり、驚きも忘れ手が伸びた。

「わわっ!」

 焦った声が、蒼の指によってあがる。指先で突っつかれている若干広めの額を押さえ、小人は「やめんか」と上空に飛んでしまった。見た目は蒼とそう変わらないのに、おじいみたいな怒り方に話しっぷりだ。灰色の服だって、おじいが拳法を教えてくれる時に着ている服にそっくりだった。

「だって。不審なものを見つけたら、とりあえず突っついてみろってお兄ちゃんが」
「不審なものをみたら触るな。って、普通に通報しておけ」
「そっかそっか。じゃあ、きみのことも」
「って、ワシかい。ちゃうちゃう、こんな話をしようとわざわざ溜まりからあがって来たのではない」

 自分がのせたくせに。ぷぅっと頬をめいっぱい膨らませ、おまけにと唇を尖らせた蒼。
 目の前で綿毛のように浮いている小人は、絵本で見た妖精みたいな七色の羽はなく、ただ本当に、立つ様に空中に留まっている。
 軽口を叩きながらも若干の警戒心を持っていたのだが。それが解けてしまったのは、

「お主、茶師にならんかの?」

 そんな嬉しそうな声にうっとりとなってしまったからだった。優しい、染みてくるような声。そうだ、この光と似ている。瞳を瞼で覆っても褪せることのない、柔らかな色を纏った光の粒が舞う空気。
 蒼は横に頭を落としたまま、にんまりと満面の笑みを浮かべている小人を数秒見つめ続ける。
 次第に、小人の言葉は蒼の耳の奥に潜っていった。一番奥に言葉がたどり着くと、ぱぁっと輝いた蒼の表情。

「茶師って、お父さんやお母さんみたいになるってこと? だったら蒼、なりたい! ここに来たのだってね、お父さんが『蒼にもお茶の葉の声が聞こえたら、お父さんみたいになれるよ』っていったからなの!」
「まぁ、光の色まで判別できるとはいえ、両親のような茶師になるにはそれなりの修行や心が必要じゃからな。今すぐというわけにはいかぬが」
「どうした
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