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総督が尋ねた。ヴェルーリヤは人間の礼に則り口調を改めた。
「私が行うのは施療ではございません。痛みの除去でございます」
「そうか」
総督は肩を揺すって満足げに笑った。
「今から余の手の者が行う事を、しかと見るがよい」
一人の施術師が、大仰に服の裾を払って前に歩み出た。施術師は少女の前まで来て、立ち上がるよう命じた。施術師は少女の両目に手をかざし、念をこめはじめた。その余波が、ヴェルーリヤの額に触れた。ヴェルーリヤは精霊としての本性によって、術の背後にある神が、享楽の神ギャヴァンであると看破した。施術師はセルセトの古い言語で祝詞を呟いていたが、やがて念が薄れて消え、かざしていた手を下した。
少女が瞬きを繰り返し、その目に活力が漲るのをヴェルーリヤは見た。
「娘よ、父母の顔が見えるか」
娘は施術師の顔を凝視した後、こわごわ背後に控える両親を振り返った。
「見えます」
と、か細い声で答えた。
「見えます、お母さん、見えるよ!」
駆け寄る少女を母親がたまらず抱きしめた。その間に、施術師は父親に報酬額を告げた。その報酬の高額な事に、ヴェルーリヤは驚いた。更に、父親が懐から数十枚もの金貨を出して渡した事にも、驚きを重ねた。
「ヴェルーリヤと申したか」
高座の総督に目を戻す。
「お前はここジェナヴァの町を夜な夜な出歩き、痛みを取り除く術を施しているそうだな」
「はっ」
「報酬は幾らだ?」
「そのような物は私には無用ゆえ、受け取っておりませぬ」
「ほう。つまり、無償でな」
総督は繰り返す。
「無償でな」
その呟きに侮蔑を感じ、ヴェルーリヤは戸惑った。施術師たちが追従するように忍び笑いを洩らしだす。
「それはまた、物好きなことよのう」
狭い院内に、総督と施術師たちの高笑いが渦巻いた。ヴェルーリヤは侮辱に耐え、背後の親子を振り返った。嫌な笑いに取り巻かれ、一挙一動を観察されながら親子に近付き、尋ねた。
「失礼ではあるが、あなた方親子はさほど裕福であるようには見受けられぬ。あれほどの額の報酬を、どのように仕立てたのだ?」
すると母親が、さも何でもないように、下の娘を女衒に売ったと答えるのでまた驚いた。一方、父親はさすがに後ろめたいのか、言い訳がましく後を継いだ。
「こうするのが一番よかったのです。下の娘は器量はそこそこですが、頭が悪く、体も弱い。一方この子はわけあって目の光を失いはしたものの、頭の回転が速く、気立ても良い。下の娘も要領が悪いわけではありませんから、うまくやっていける事でしょう。一方この子は将来の見込みがあるから、私達の家で教育する方が良いのです。それが下の子も含め、皆の為です」
「時にヴェルーリヤよ、貴様の神ルフマンへの信仰は、敵対するナエーズ島において興った事は存じ
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