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鞭打たれた老人に、ヴェルーリヤはわけを尋ねた。セルセト本国から派遣されてくる新任総督の為に、その好みに合わせて総督府が華美な様式に造り変えられているのだと老人は答えた。何せ就任式までに日が足りぬから、労働者たちは昼も夜もなく働かされているのだと言う。
また別の者からは、ナエーズ島との戦に備えてジェナヴァに軍港が造られると聞いた。彼らは長年の不作によって農耕を放棄せざるを得ず、生活苦に付けこんだ為政者によって惨たらしいほど扱き使われているのだった。ヴェルーリヤは彼らを深く憐れみ、日が昇り動けなくなる時の際まで人々を癒やし歩き、ルフマンへの信仰を説いた。そうして、いつか自分の農地を取り戻せる日が来ると、彼らを励ました。
件の新総督が就任し、幾日か経った晩であった。
傷ついた労働者たちの宿舎に、身なりのよい、総督府からの使者達が押しかけて来た。使者達は床に寝そべる労働者たちを蹴散らすように宿舎の奥まで来て、ヴェルーリヤを取り囲んだ。
総督府に来るよう、彼らは居丈高に命じた。その時ヴェルーリヤは、銀の着服を疑われ、湯責めの拷問にかけられた無実の男の痛みを取り除いている最中であった。
「日を改めて参ると伝えて下さらぬか」
ヴェルーリヤは、生命を危ぶまれるほどの火傷を負った労働者を胸にかき抱いたまま言った。
「今宵、この者達を残して宿舎を去る事は出来ぬ」
使者達は不満の色を示し、内一人は馬を打つための鞭に手をかけた。
「行ってください」
腕の中で、息も絶え絶えに男が言った。
「自分はもう充分でございます」
それよりも、自分達がヴェルーリヤを引き止める事で新総督の怒りを買う方が怖いと、耳もとで囁いた。黙っている労働者達の眼も、同じ恐れに染まっていた。
ヴェルーリヤは後ろ髪を引かれる思いで宿舎を後にした。前後左右を総督の使者に囲まれ、初めて富裕な区画に足を踏み入れた。この夜更けにも、実に多くの人が出歩き、街路に灯が煌々と点り、賑わっている事に驚いた。人々は首を伸ばして好奇の目でヴェルーリヤを嘗める様に見た。ヴェルーリヤは自分が珍奇な見世物にされている様な、不快な気分になった。
使者たちは総督府敷地内の、限られた者だけが立ち入りを許される施療院にヴェルーリヤを連れこんだ。院内には香が焚かれていた。嗅いだ事のない香であった。高座によく肥えた男が腕組みをして座り、頬の肉に埋もれかけた細い目でヴェルーリヤを見下ろして、にやにやと笑っていた。この男が新総督であろうとヴェルーリヤは察した。総督の後ろには祭壇が設けられている様子だが、幕で隠されている。高座の下には施術師達が立ち並んでいた。
そして、貧相な身なりの夫婦と少女が跪き、頭を垂れていた。
「ルフマンの名のもと施療を行うというのはお前か」
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