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横浜事変-the mixing black&white-
エピローグ
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の歩調で踏んでいく。途中の信号で身体の向きを左に変えて、車の流れをボーっと眺めていたのだが――

 「……?」

 浅い車の海の向こう側に、どこか見覚えのある人物が立っている気がする。近ごろ視力が落ちてきたのでしっかりと判別出来ないが、それでも体つきや顔立ちに記憶の引き出しが応じたのだ。少なからず分かったのは、相手がマスクをして鼻から口元まで隠している事だ。

 信号が青になった。ケンジは平然を装った足取りで、それでいて目だけはその人物を射る。

 ボヤけていた線が近づくにつれてはっきりとしてきた。足、腰、胴体。順々に確認していって、最後に顔。ケンジは何食わぬ表情でその人物と目を合わせ――

 「えっ」

 とても情けない驚きの声は、ケンジとその人物だけしか認識しなかった。だが相手はいきなりケンジの右肩に手を置き、やはり馴れ馴れしい言葉を吐き捨ててからすれ違っていった。

 「よぉ、俺も『俺ら』もまだ滅んじゃいないぜ?」

 どれだけ立ち尽くしただろうか。ようやく我に返ったときには歩行者用信号はとっくに赤で、列を作った車からクラクションの文句が放たれていた。

 急いで歩道まで走り、それから向こう側の歩道に目を送った。しかし、彼の姿はどこにもなかった。

 ケンジは背筋に冷たい何かを感じながら、その存在を確かめるように人名を呟いた。

 「……あかじま、さん?」

 どこかで、幼馴染の彼女が笑った気がした。

 『もっと強くならなくちゃならないね』と。

                                          終

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