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横浜事変-the mixing black&white-
社長「これからの横浜は安泰だ。良かったな、何でも屋」
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の件で、この街から危ないモノが消え去るだろう。殺し屋、暴力団、麻薬組織……規模がどれぐらいかは把握していないが、日に日に消滅していく筈だよ。太陽の光から逃れようとするネズミのようにね」

 「……」

 「裏でコソコソできる場所は正当な規律によって破壊され、心地いい光の差し込む場所が増加する。それが彼らにとって何を意味しているのか、何でも屋のお前には分かるだろう?」

 「……貴女達は何をしにここに来たの?幅を利かせすぎた殺し屋達の退治?」

 「おや、それは知らないのか。いやなに、横浜に来たのは取り越し苦労だったよ。『頭』に貸しを付けられたのが良い収穫だったぐらいだ」

 半分独り言のような言葉を吐き捨てると、少女はゲリラライブを盛り立てる群衆の方へ歩き出した。宇春は呼び止めようとしたが、ライブの喧騒に紛れて聞こえてきた彼女の澄んだ声によって行動を妨げられる。

 「これからの横浜は安泰だ。良かったな、何でも屋。祝いにヘヴンヴォイス(こいつら)の演奏を聴かせてやるよ」

 少女と無言を貫き通した大男が去り、宇春はその場に取り残される。何をするでもなく、しばらくライブ辺りを見つめていたが、やがて彼女は気付いたように言葉を紡いだ。

 「そっかぁ。この街にはもう、みーんないないのね」

 それから真反対側に位置する道路の方に首を曲げた。依然として何台か警察車両が通り過ぎていくのを見て、グレーゾーンにいる女は困った顔を浮かべて呟いた。

 「友達はいなくなるし、朱華飯店は寂しくなるし……お先真っ暗ねぇ」

 コツ、コツと(かかと)を鳴らして彼女は歩き出す。そしてバッグから携帯を取り出して、電話越しの相手へのスマイルを顔に貼り付けた。

 「何度もごめんなさいね。今からデリヘル伺えるんだけど、必要かしら?」

 そうして、何でも屋はいつもの帰り道である南門を抜け、私鉄の地下駅へ入っていった。彼女にとって、殺し屋が消えるという事実より、自分の今この瞬間こそが全てなのだ。そしてそれは、この街にいた裏側の人間達全員の共通項だ。

 風が冷たい。宇春は今更のようにそう感じたが、このときだけはいつも以上に冷たかった。

*****

 やがて横浜の街は朝を迎え、太陽が新しい一日を引きつれて顔を出した。

 人々は知らない。この街は昨晩、一人の男によって一つの世界を失ったという事を。殺し屋を始めとした裏通りの人間達が街から消えたという事実を。

 朝のニュースに浮上した『ゲリラの横浜?暴力団抗争とロックバンドが描いた二つの出来事とは?』で大まかに事情を知っただけで、彼らは根本的な面を見ていない。それはありふれた日常でありながら、とても残酷な現実だった。

 一つの世界が消えたとき、物語は終わりを
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