第3部 始祖の祈祷書
最終章 虚無
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イズの口から低い詠唱の声が漏れてきた。
『エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ』
ルイズの中を、リズムが巡っていた。
一種の懐かしさを感じるリズムだ。
呪文を詠唱するたび、リズムは強く唸っていく。
神経は研ぎ澄まされ、辺りの雑音は一切耳に入らない。
まるで、夢の中にいるような感覚であった。
自分が自分ではないような。
これが本当の自分なのだろう?
『オス・スーヌ・ウリュ・ル・ラド』
体の中に、波が生まれ、さらに大きく唸っていく。
『ベオーズス・ユル・スヴュエル・カノ・オシェラ』
体の中の波が、行き先を求めて暴れだす。
それを読み取ったウルキオラが操縦桿を倒す。
ゼロ戦が、真下の『レキシントン』号めがけて急降下を開始した。
ルイズの目に輝きが戻る。
『ジェラ・イサ・ウンジュー・ハガル・ベオークン・イル……』
長い詠唱ののち、呪文が完成した。
その瞬間、ルイズは己の呪文の威力を、理解した。
巻き込む、すべての人を。
自分の視界に移る、すべての人を、己の呪文は巻き込む。
選択は二つ。
殺すか。
殺さないか。
破壊すべきは何か。
烈風顔なびる中、真っ逆さまに降下する自分。
目の前に広がる光景は巨艦。
戦艦『レキシントン』号。
ルイズは己の衝動に準じ、中の一点めがけて、杖を振り下ろした。
アンリエッタは信じられない光景を目の当たりにした。
十二の艦隊が撃墜させられた時以上に驚いた。
上空に光の玉が現れたのだ。
まるで小型の太陽のような光を放つ、その玉は膨れ上がる。
そして……、包んだ。
空を遊弋するレキシントン号を包んだ。
さらに光は膨れ上がり、視界すべてを覆い尽くした。
音はない。
アンリエッタは咄嗟に目を瞑った。
目が焼けると、錯覚するほどの光の玉であった。
そして……、光が晴れた後、艦隊は炎上していた。
巨艦『レキシントン』号の帆が、甲板が、さらに燃え上がる。
まるで嘘のように、あれだけトリステイン軍を苦しめ、二回の大きな爆発にも耐えた艦隊が、がくりと機首を落とし、地面に向かって撃墜していく。
地響きを立てて、艦隊は地面に滑り落ちた。
アンリエッタは、しばし呆然とした。
辺りは、恐ろしいほどの静寂に包まれていた。
誰も彼も、己の目にしたものが信じられなかったのだ。
一番初めに我に返ったのは、マザリーニだ。
彼は、レキシントン号を落としたのが緑色の竜だと推測した。
して、それは当たる。
彼は、戦艦が遊弋していた空に、煌めく緑翼を見つけた。
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