Episode34:モノリス・コード
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デブ」
俺のものとは思えない程に嗄れた声で、僕はその罵倒を口にした。
そんな事を言えばどんな目に遭うかもわかっていたはずなのに。それ程僕は、この男に腹が立っていた。
聞きたくもない金切り声が耳に、頭に響く。振り上げられた右拳が?に叩き込まれ、口内に鉄の味が広がる。
何度も。何度も。何度も。
数え切れない程殴られた。血が足りなくなって逆に冷静になってしまう程殴られた。
痛みに眩む視界に、見下ろした視界に、一人の少女が写った。
先程放り投げられた銀髪の女の子だ。いつの間に意識を取り戻したのだろうか。今にも泣き出しそうな顔で僕を見ている。
ああ、なにをやっているんだ僕は。この子達を助けたかったのに、なに泣かせているんだろうか。これじゃダメだ。
ああそうだ、力だ。力がいる。
この状況を打破する、目の前のコイツを倒し得る力が。
でも、僕にそんな事ができるのか?
僕は、魔法なんて使えないはず。
いや、俺は知っている。
俺は、魔法を使うことができる。
女の子を泣かせたこいつを黙らせる魔法を、僕は知らない。
エリナを泣かせたこいつを黙らせる魔法を、俺は知っている。
大人を倒す魔法、そんなのは、まだ僕は教わっていない。
素人を殺す魔法、そんなのは、もう俺は幾つも知っている。
僕には、できない。
俺なら、できる。
☆★☆★
「………はぁ」
目が覚めて、俺は溜息をついた。
夢にしては随分とリアル過ぎるものだった。いや、アレを夢と判断するには少し異常だ。
未来視はないと断言しよう。あそこにいた俺は間違いなく幼少の頃だ。
ならば過去、つまり俺の記憶だという仮説が出てくるけど、あんな体験をした記憶はない。
幼少の頃の俺は魔法を扱う事ができなかったため、普通の学校にいって普通の勉強をして、魔法とは無縁の暮らしをしていたはずだ。
ただ、記憶というものは総じてあやふやなものだ。少しの衝撃が加わればすぐに忘れてしまうし、なにしろ魔法による記憶改竄すらもできてしまう。
「…それに、あの牢屋にはエリナもいた。クソ、なんなんだ一体」
俺の上に放り投げられた銀髪の少女。あの子はどう見てもエリナに無違いはなかった。
ああ、もう訳がわからない。
考えても分からない事で悩み続けるのは良くないか。明日からモノリス・コードが始まるのだし、寝なければ。
「……あれこれ考えるのは、目の前に迫った問題を片付けた後にしよう」
じわじわと迫る焦燥感を振り切るように、俺は眠りにつくのだった。
☆★☆★
「お、おい…大丈夫なのか?」
「…はぇ?」
九校戦七日目・新人
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