Episode34:モノリス・コード
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草木も眠る丑三つ時。闇とは無縁の人ならば眠りについている時間であろうこの刻は、しかし闇に生きる者にとっては最も動き易い刻である。
九十九隼人子飼いの情報屋である九十田エリナもまたその例に漏れず、主人から待機命令が出ているにも関わらず行動を続けていた。
彼女の目下の目的はこの九校戦の舞台で最も警戒すべき男、紫道聖一の監視である。
常にばら撒くように発し続けている殺気や、これまでの監視の中で見つけた怪しい動き、そして彼女の記憶から引き出した彼の異常性。それらを総合した上での結論は決して間違いではなかった。
故にその監視は今まで以上に慎重に行ってきた。
だから今回の結果は、まだまだ彼女のツメが甘かったということだろう。
「久しぶり、だな。五十嵐エリナ」
腕を捕まれ壁に叩きつけられたエリナは、目の前で歪な笑みを浮かべる男を睨みつけた。
透過の魔法ですり抜けようとしても、サイオンが改変される兆しは訪れない。彼の前ではそういうことになってしまう。
「五十嵐の名は捨てたって言ったでしょ、今は九十田よ。狂信者」
口から出る言葉は自然と棘のあるものとなる。そうでもしなければ紫道の発する気に呑まれてしまうのだ。
「そういえば、そうだったな」
闇夜に輝く漆の瞳。狂気にも似た濁った光を帯びるその瞳から、エリナは目を逸らした。
「アンタ達が私を連れ去ったのが原因だって、忘れたの?」
「いいや、忘れる、はずがないだろう。なにしろ、透過の法を唯一、宿した実験体、なんだからな」
思い出すのは苦痛の過去。
痛みと恐怖、悲鳴と嬌声の入り混じる地獄のような地下施設。
そこで、エリナは五十嵐の名を剥奪された。
「ああ、やっと会えたよ、九十田エリナ。さあ、俺と共に来い。あの人も、お前が戻るのを、待っている」
「……まさか。私は、あの地獄には戻らない」
間違いなくあの場所は地獄であった。数年振りに外の世界に出て、遥か空に照り輝く日の光を浴びて、エリナは誓ったのだ。『もう二度とあの場所には戻らない』と。
「……そう、か。残念だ、よ。お前ならば効率良く、九十九隼人を殺せると、思ったのだが、な」
「…それこそまさか。私が先輩を殺す? そんなはずないじゃない。理由がない」
そこまで言って、エリナは自分の失態に気がついた。病的なまでに青白い紫道の唇が弧を描く。
紫道聖一という男の本質。それを知っていたはずなのに、彼女は選択を誤った。
紫道聖一は、この男は根拠のない話は決してしない。彼の発する言葉には全てに意味があり、そして裏がある。
彼の言葉を真に受けてはいけなかったのだ。
「理由なら、あるぞ」
やめて。
き
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