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Muv-Luv Alternative 士魂の征く道
第17話 解脱
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ならないだろう……もう、家族を家族として呼ぶことすら出来ない彼。
 家族でさえ、自らとは違う存在となってしまった彼は―――孤独だ。その強さ故に孤高だった彼はその同意義の苦しみを深くしてしまっているはずだ。

 だから、彼の傍に――彼に一人じゃないんだよ、そう実感させてやれる人間が必要なのだ。
 雪うさぎに寄り添う、もう一匹の雪うさぎの様に。
 彼が、人の世の冬。戦乱の世という冬の時代にしか生きられない雪うさぎなら、自分はそれに寄り添う雪うさぎになってあげたい。

「あ、―――俺に被虐趣向はないからな?勘違いするなよ」
「………ぷ、あはははは!!何ですかそれは」


 不意に思い出した明後日な方向の疑念を忠亮が言ったのを耳にし、つい堪え切れず吹き出してしまう。
 口元に手を当てクスクスと笑ってしまう―――いったい何時振りだろう、こんな風に軽い心で笑えるのは。
 零れる暖かな想いと一緒に胸に宿るこの気持ちは何なのだろう。この悲しみにも、喜びにも似た絵具を雑多に掻き混ぜた様な感情は。

「そこまで笑われるとそれはそれで微妙なんだが……」
「だって……ふふふ!」

「やれやれ……やっと笑ったな。」

 深い眼差し、唯依を見る忠亮―――その瞳の穏やかな色に呼吸を忘れそうになる。
 彼の眼差しには色んな色がある。

 野蛮にして冷徹に燃える戦意の眼差し、愁いを帯びた静寂深慮の眼差し。
 花雲(はなぐも)が如き遠くの何かを幻視する眼差し、春障子(はるしょうじ)が如き穏やかな優しい眼差し。

 春野の様に万様に複雑な色合いで、玉虫の様に決して単色を示すことのない感情を彼は目で語る。目は口ほどに物をいう、彼の場合それがより顕著だ。
 彼の心は単純なようで複雑怪奇、それが混じり合って、万華鏡の様に色んな色を見せ、心を語ってくれる。

 そんな彼の眼差しがいつの間にか――――好きになっていた。

「お前には笑っている顔が似合う―――だから、それを無くすな。俺の楽しみが減るのは困る。」
「……」

 唯依の顔を見下ろす忠亮。そして彼女は思う―――ああ、この人はトンデモナイへそ曲がりの意地っ張りだと。
 素直じゃない、意地が悪い、ついでにド不器用だ。……けれども性根は真っ直ぐだ。

「なら、見逃さないように傍に居てください。」
「……なんだ、お前は俺を口説いているのか?」

 微妙にあきれ顔になる忠亮。それにちょっと困った風に唯依は苦笑する。

「そういう意味じゃないですけど、わざわざ見せに行くのも可笑しな話じゃないですか。」
「それもそうだな、作り笑いなんぞ見ても面白くないしな。特にお前は堅物だから笑うのを堪えようとして百面相している事があるしな――それはそれで面白いのだが、イロモノだな。」


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