第百九十二話 大返しその四
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「迂闊に攻めるな、よいな」
「はい、畏まりました」
「今は我等が生き残る為に」
「何としてもですな」
「ここは耐えるべきですな」
「そうじゃ、武士の誇りに反することになるやも知れぬが」
それでもだというのだ。
「それでもじゃ」
「辛いことになろうとも」
「最後に勝つ為に」
「その為に」
「そういうことになる。そしてじゃが」
家康は家臣達にさらに話した、今度の話はというと。
「高天神城じゃが」
「あの城ですか」
「あの城は要衝にあるが」
それでもだというのだ。
「奪われることはな」
「それは、ですな」
「覚悟しておくべきですか」
「あの城が奪われることも」
「それも」
「そうじゃ、あの城は奪われるやも知れぬ」
武田の大軍の前にだ。
「そしてそのうえで攻められるかも知れぬが」
「それも覚悟し」
「戦うべきですか」
「最悪この浜松か岡崎の城に篭る」
そうして守るというのだ。
「吉法師殿は必ず来られるからな」
「織田殿は」
「確実に来られますか」
「そうじゃ、来てくれる」
このこと確信しているからこその言葉だった。
「あの方はそういうことじゃ」
「では何としても」
「ここは」
徳川の者達はとにかく守るつもりだった、そうして籠城すらも念頭に置いて何としても生き残ろうとしていた。
東では大きな動きがあった、それはすぐにだった。
織田家の者達も見た、それでだった。
彼等はすぐに西に戻った、煉獄はその駆ける中で己の横に来た拳の傍に前に駆けつつ寄ってだ、こう言った。
「見たな」
「うむ」
その通りだとだ、拳も答える。
「武田が動いた、上杉もな」
「このことを殿に伝えるぞ」
「当然だ、それで飛騨者達は」
「安心せよ皆無事じゃ」
「そうか、それは何よりじゃ」
拳もそう聞いて喜んだ。
「無事ならな」
「うむ、ではな」
「殿のところに戻るぞ」
「ああ、急ぐぞ」
煉獄はこうも言った。
「これまで以上にな」
「ことは一刻を争うな」
拳も言う。
「だからこそな」
「走れるな」
「無論だ」
走れない筈がないという返事だった。
「わしは忍だ、それもな」
「特別な忍だよな」
「我等飛騨者はな」
「だからだな」
「駆ける」
これまで以上の速さで、というのだ。
「そうしようぞ」
「それじゃあな」
こうしてだった、飛騨者達は普段以上の速さで駆けてだ、そうして信長がいる備中に向かうのだった。
そして備中に来てだ、信長にそのことを伝えた。すると。
信長はすぐにだ、諸将に言った。
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