第百九十二話 大返しその三
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「それだからこそじゃな」
「我等が関東を治めることを許すのなら」
「どの家が天下を治めてもよいな」
「武田、上杉は一応はそれを認めました」
「一応はな」
「はい、そうしていますが」
「問題は織田か」
彼等はどうかというのだ。
「織田が我等の関東を治めることを認めるか」
「それがわかりませぬな」
「それ次第ではじゃな」
「織田家が生き残れば」
その時はという幻庵だった。
「戦になるやも知れませぬな」
「そうであるな」
「殿、今のうちに守りを固めましょう」
大道寺が言って来た。
「小田原、そして各城の」
「全てのじゃな」
「そうして城それぞれをつなげ」
「そうしてじゃな」
「織田家が攻めて来たなら戦いましょう」
そうしようというのだ。
「武田、上杉が攻めて来ても同じですが」
「どちらにしてもじゃな」
「今のうちに守りを固めましょう」
大道寺は氏康に再び話した。
「ここは」
「その通りじゃな、それではじゃ」
氏康は大道寺の言葉を受けたうえであらためて家臣達に話した。
「今よりじゃ」
「はい、守りを固めましょう」
「領地全体の」
「どの家が来ても退ける」
織田でも武田、上杉のどちらでもだというのだ。
「そうするぞ」
「畏まりました」
「それでは」
これが北条家が打つ手だった、そして実際に。
氏康は織田と武田、上杉がぶつかるその間に関東を治めることを天下人となる者に認めさせる為に備えるのだった、彼もまた戦いに備えていた。
同盟を組み合う三つの家はこうした動きだった、そしてそれを見て一つの家が覚悟を決めた。その家はというと。
家康は浜松城でだ、武田と上杉の出陣のことを聞いてすぐに家臣達を集めた、そのうえで彼等に言うのだった。
「遂にじゃ」
「はい、武田と上杉が動き」
「特に武田がですな」
「また来る」
こう言うのだった。
「我等を攻めにな」
「再び、ですな」
「戦となりますな」
「よいか」
家康は家臣達にさらに言った。
「この度の戦、わしは決して迂闊なことはせぬ」
「ではこの度は」
「三方ヶ原の様なことはせぬ」
大久保彦左衛門にも答えるのだった。
「間違ってもな」
「では慎重に、ですな」
「そうじゃ、吉法師殿は必ず来られる」
信長は、というのだ。
「城に籠り吉法師殿を待ちじゃ」
「そうして、ですな」
「戦いますな」
「我等では武田には勝てぬ」
このことを強く認識した、その三方ヶ原の戦で。
「それでじゃ」
「織田殿のお力を借り」
「そのうえで」
「耐えるのじゃ」
今は、というのだ。
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