第6章 流されて異界
第108話 蒼の意味
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蒼の髪の方が印象の強い彼女。
僅かな視線の交錯。後ろ姿からでは万結の表情は判らない。朝倉さんの表情は疑問。ただ、彼女の瞳に籠められた力はやや強い。
良く分からないけど、もしかすると朝倉さんに取って神代万結と言う存在は正体不明……なのかも知れない。少なくとも、あまり友好的とは言えない雰囲気。
そうして、
「貴女からは何も感じない」
マンションに吹き付けて来る風の音の方が強いぐらいの万結の声。その小さな、更に意味不明の内容の言葉が風に散じる前に、彼女の抑揚のない硬質な声が続く。
「貴女は私たちにはあまり関わらない方が良い」
紡がれる言葉の内容は俺の考えと一致する物。本人の意志次第とは言っても、その方向性を決める為の情報は多いほど良い。その情報の中で、俺たちに関わらない未来を選んだ方が良い、と言う情報を彼女に伝えて置く事は禁止されている訳ではない。
しかし――
「私たちは楔」
しかし、万結が次に発した言葉は俺の予想を超えた物。
彼女の言う楔と言うのは……。
「蒼……。そして紫も闇の始まりを示す色。蒼穹、そして海もその向こう側には無窮の闇を孕む」
私たちは彼がその闇に沈まない為の楔。
一切の感情をそぎ落とし、抑揚を消滅させた口調が闇に朧に浮かぶこのマンションの屋上に流れて……消えて行く。
彼女ら独特のペシミズムと、その作り物めいた容貌。そして、単語ごとに区切るような人間味の薄い喋り方が、希薄な……無機質さを助長しているかのようで有った。
そうして、その彼女の言葉の内容はあのハルケギニアでの最後の戦いの際に、ゲルマニアの皇太子ヴィルヘルムが語った内容。俺の周りは、俺と前世で絆を結んだ人間のみで構成され、それ以外の人間が入り込むのを防いでいる……と言う内容の補足になる情報。
ならば、この神代万結と名乗る少女型人工生命体に宿った魂と言うのは、ヴィルヘルムが言う業を重ねつつある魂と言う事なのか?
いや。それ以前にタバサ。湖の乙女。長門有希。そして、神代万結。この四人は――
「そんな誰が決めたのか判らないようなルールに従って、未来を決めて仕舞うような生き方を肯定しているのか、万結?」
思わず口から出して仕舞った疑問。但し、この疑問の答えは初めから判って居る。
しかし、頭では理解し納得していたとしても、心の何処かでは反発している答え。
ゆっくりと。殊更もったいぶってそう言う動きをしている訳ではなく、彼女らの所作がそう言う風に感じさせると言うだけで、本来はさして時間を掛けている訳ではない普通の動きで振り返り、やや上目使いの視線で俺を見つめる万結。
そして一呼吸分、その紅玉の瞳に俺を映した後、
「その生き方を決めたのは私」
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