第6章 流されて異界
第108話 蒼の意味
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ん。その彼女から漂う石鹸と、そして有希の部屋で使うリンスの微かな香り。
何となく、そんな仕草もとても新鮮に感じる俺。
何故なら、有希にしても、そしてタバサにしても、そんな細かい事には頓着しません。それに、そもそも、彼女らはその気になればスカートをはためかせる程度の風など無効化する事が可能なんですから。
ただ――
「いや、ロマンチストと言うよりは、妙に手持無沙汰でな」
冬の星座で正確にその居場所が判るのはオリオン座。それに、かなり明るいシリウスぐらいの俺に対して、ロマンチストと言う言葉は似合わないよ。
そう言いながら、彼女と同じ方向。金網越しに周囲を見渡せる方向へと向き直る俺。その時、少し身体を風上に立てるようにして、朝倉さんに直接、風が当たらないようにする。
但し、これは朝倉さんに違和感を抱かせない為の小細工。本命は彼女の周囲の炎の精霊を活性化させ、季節感無視の薄着状態の彼女に寒い思いをさせない為の処置。
尚、現状、何故こんなトコロで俺が独りでたそがれて居たかと言うと……。
有希と二人だけの時には味わう事の出来なかった賑やかな夕食の後、後片付けと平行して入浴と言う運びとなったのですが……。
「武神さんは、本当に最後で良かったのですか?」
もっとも、俺自身はその後片付け役からは除外。そもそも、大人数で作業が出来るほど広いキッチンではないのでこれは当然の措置でしょう。それで、同時に平行して順番に入浴を済ませて行く事となったのですが……。
「俺は肌も弱いから、一番風呂のさら湯よりは、誰かが先に入った後の湯の方が馴染むんや。せやから、そんな細かな事を気にする必要はないで」
澄んだ大気の元、悠久の彼方より囁きかけて来る星空から俺の方に顔を向け、少し眉を動かした朝倉さんにそう答えを返す俺。
この時、彼女が発して居たのは――難しいけど、多分、納得。何に付いて納得したのかは判りませんが……。
しかし、俺の顔を見つめて居たのも一瞬。そのまま金網に背を預け、蒼き月の支配する夜空へとその瞳を向けた。
そうして、
「良く晴れた月夜ですね」
そう話しを続ける彼女。
確かに、この季節を支配するシベリアから張り出して来た冷たい高気圧は、冬に相応しい気温と、そして、晴れ渡った氷空を作り出していた。
ただ……。
ただ、答えに詰まる一瞬の隙間。確かに、彼女が言うように今宵は良く晴れた夜には違いない。氷空には冬の夜に浮かぶオリオンがその雄姿を現し、母熊は子熊を守るように彼の周囲を回る。そんな、何の変哲もない平和な冬の夜。
しかし――
しかし、今宵は『月夜』などではない。
「確かに、明るい月夜やな」
同じように金網に背を預け、少し顔を上げて氷空を見つ
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