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【短編集】現実だってファンタジー
虫を叩いたら世界は救われるか検証してみた・結の章
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愛しく感じ始め、あれよあれよというまに結婚した。
そしてその結婚式。新郎新婦は例のアレ――ハネムーンに向かう車の背部に大量の缶を繋げるという定番のアレを決行した。

……そしてその缶の中の一つが走行中に紐から逃れて旅立って行ったことに、とうとう新郎新婦は気付かなかった。



ハネムーンの幸せから一転してただのアルミ製のゴミと化した空き缶は、人生を転がり落ちるが如くからからと坂道を転がり落ちていた。だが悲しいかな空き缶は空き缶。無機物で大量生産品な空き缶に自分の運命をどうこうする力がある筈もなく、重力と地形に従うがままに転がり続けた。

空き缶はどこから来たのだろう。空き缶は何者だろう。空き缶はどこへ行くんだろう。
人間はその回答に、傲慢にも「お前はただのゴミだ」という無慈悲な言葉をかけることが許される。
人がそんなに偉いのか。思考できる有機生命体がそれほど上等な存在か。
空き缶は人間で言う恨み辛みを募らせた。そして空き缶は、人間に復讐した。

かぁん、と甲高い金属音を立てて空き缶が空を飛ぶ。
それは空き缶界においてのライト兄弟が空を飛ぶような、空き缶史に燦然(さんぜん)と輝く歴史的な快挙だった。
これ以降、世界の全ての缶が人に恨みを抱いた際に彼に続くだろう。
無機物による有機物への反乱計画は、思えばこの日に始まったのかもしれない。



カコォンッ!と子気味のいい音が響いた。

「あイタぁッ!?」

男性はもう何日も洗っていない頭を押さえて突然の痛みにしゃがみ込んだ。
彼はこの町にもう10年近く住んでいるホームレスである。定職につけず家もなければ身寄りもいない。仕方なくこの厳しい都会で教会の炊き出しや廃棄食品を頼りにこつこつ生計(と呼べるかも怪しいが)を立てている。

「イテテ……さてはまた近所の悪ガキが何か投げつけてきやがったな!?ホームレスだからってやっていいことと(わり)ぃことがあるって分かんねえのか!!………って、もう居やしねえ」

犯人の面を拝もうとしたホームレスだったが、そこに人はいない。彼も流石に空き缶が自分で飛んできたとは思いもしなかったろう。結局、やり逃げされたと憤慨する他なかった。

「……んん?………おお!何だ何だ、こりゃアルミ缶じゃねえか!へへへ、誰だか知らねえが飯の種をありがとよ!」

世の中には空き缶拾いという仕事が存在する。
空き缶拾いをするのには必要な身分もなければ誰かに認めてもらう必要もない。缶を拾って買い取ってくれる場所に持ち込み、代金を貰えばいいだけだ。しかも時間に拘束されずに義務も存在しない。つまり彼のようなホームレスにとっては非常に都合がいい仕事だと言える。

代わりにかなりの量を揃えないとはした金にしかならないが、それでも時間だけは有り余
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