虫を叩いたら世界は救われるか検証してみた・結の章
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を焦がす。早く、急げと叫ぶ感情が頭を叩く。
だが、身体は平静に。呼吸は自然体で。指をかけるトリガーはまだ引かない。
勝負は一瞬。
だが、その一瞬が訪れない。
(一瞬でいい。左を向け……ほんの一瞬でいいんだ……!!)
マタギとしての最後の仕事を果たし、親友の無念をも晴らすために、源八はその一瞬を逃すまいと必死に熊に食いつくような視線を向け続けた。
そして、奇跡が起きる。
「こぉぉぉーーーん!!」
山に木霊する獣の遠吠えに、穴持たずの意識が一瞬逸れた。
「ヴルルルルル……?」
(……こりゃ、狐の鳴き声か!?反応して顔が逸れた!!)
今しかない。そう直感した源八は、人生最高の狙撃を敢行した。
弾丸は爆発した薬室から凄まじい速度で吐きだされ、考えうる限り理想的な弾道を描き――熊の側頭部に突き刺さった。
「やったか!?」
思わず後ろの同僚たちが色めき立つ。だが、まだだ。命中はしたが完全に仕留めきっていない。弾丸の衝撃を4本足で立て直そうとした穴持たずの動きを見て、源八は確信した。まだあいつには余力がある。
だからその余力、ここで奪わせてもらう。
「もう一発だ!お前らも続け!!」
「応ともさッ!!」
同僚4名と源八とで計5丁の猟銃の銃身が、よろめく穴持たずに一斉に突き付けられた。
「どうやら狐につままれたみてぇだな……往生しろやぁッッ!!!」
山に複数の乾いた銃声が響き渡った。
そしてしばしの時を置いて、山にマタギの勝利の凱歌が響き渡った。
「……ってな経緯を経て出来たのがこの熊鍋なわけよ」
「クマって脂身ばっかだって聞いてたけど、そうでもないのね」
「ああ、そりゃ多分冬眠前でたらふく栄養を蓄えてる熊じゃないのか?」
「なるへそ納得!」
源八の仕留めた熊は猟師たちに解体され、そのうちの一つは都会に出稼ぎに出た彼の孫の下へと渡っていた。量が量だったため、孫は近しい人を家に招いて鍋パーティを開いていた。
この時、孫は20歳半ば。未だ一人身ではあったがそれなりに充実感のある仕事に満足していた。祖父もとうとうマタギを引退するという事なのでちょっとした心配も杞憂に終わりそうだった。
後はひ孫の顔でも見せてやれればいいのだが、今は恋愛をする気にはなれない。その時まで、孫はそんなことを考えていた。
だが、その鍋パーティに一人だけ見慣れない女の子がいることに、彼は気付いた。
「あれ、君は……?」
「あ、あの……初めまして。友達に誘われましてお邪魔してます」
「そ、そうなのか。えっと……よろしく」
少し遠慮がちにぺこりと頭を下げたその女性に、彼は心奪われた。彼女がとても美しかったからだ。
二人はそのまま知り合いになり、友達になり、やがて互いを
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