第四章
[1/2]
[8]前話 [1]次 最後
第四章
「だからだ。私は今は何もできない」
「しかしこのままでは大変なことになるぞ」
「だが彼はそんな有様なのだ」
レイノーにもどうにもできなかった。何しろ軍は彼に任せているからだ。
チャーチルは電話を切り唖然となった。そして今さっき使っていた銅製の金色の電話を見てだ。忌々しげにこう言ったのだった。
「私ですら使っているのだ。何故あの男は使わない」
「このままではどうなるでしょうか」
「答えはもう出ている」
また秘書に答えた。ここでもだ。
「敗れるな」
「敗れますか」
「私もドイツ軍には驚いている」
チャーチルは彼等の有能も認めた。
「一次大戦の頃と同じくオランダ、ベルギーを侵攻してだ」
「そしてドイツに向かうと思われていたのですね」
「そうだった。しかし彼等はだ」
「はい、アルデンヌの森を突破してきました」
戦車では通り抜けることができないと言われていたそのアルデンヌの森を突破してだ。ドイツ軍はフランスに雪崩れ込んだのだ。これでマジノ線を無効化したのだ。
このことにはチャーチルも驚いた。だがそれ以上にだったのだ。
彼は難しい顔でだ。ガムランのことを話した。
「だがな」
「あの閣下はですか」
「そして彼に頼るフランスだ」
フランス自体についてもだ。チャーチルは言及するのだった。
「確かに一次大戦での功績がある」
「それは確かですね」
「そのことは事実だ。しかしだ」
「一次大戦は一次大戦ですか」
「今ではない」
今現在の戦争は一次大戦とは全く異なっているというのだ。チャーチルは今先程レイノーとの連絡に使ったその電話を見てだ。また言うのだった。
「今はあの頃とは全く違っている」
「伝令だけではどうにもなりませんね」
「彼はそのことが全くわかっていない」
「しかもですね」
「梅毒まで患っていてはだ」
「マラリア療法や薬で抑えているそうですが」
この時代の梅毒への治療だ。あえてマラリアになり体内の梅毒菌を殺すという治療法もあったのだ。梅毒菌は熱にはかなり弱い菌だからだ。
荒療治だが実際に行われていた。ガムランもそれを行ったのだ。
だがそれでもだとだ。チャーチルは言った。
「しかし完治はしていなかったな」
「そのせいで、ですね」
「あの状況だ」
思考能力がかなり落ちているというのだ。
「最早何にもならない」
「ですがそれでもです」
秘書は難しい顔でチャーチルに話す。
「フランス軍はあの方しかおられません」
「その通りだ。権威だからな」
「しかしその権威はですか」
「時代により変わるし衰えもする」
厳然たる事実を述べたチャーチルだった。そうしてだ。
彼は難しい顔のままでだ。こう秘書に言った。
「フランスの命運は決まった」
「完
[8]前話 [1]次 最後
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ