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戦国異伝
第百九十一話 水攻めその十

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「具足や武器を持ったままでは足が遅くなります」
「それは確かにじゃな」
「そして兵糧もです」
「軍が持ったままではか」
「進むのが遅うなります」
 こう信長に言うのだ。
「ですからその時はです」
「安土に戻る時は」
「少し考えて進むべきかと」
「そうじゃな、そのことも考えてな」
 そうしてとだ、信長は腕を組んで言った。
「安土に戻るか」
「そうすべきかと」
「戦はこれで終わりではない」
 毛利とのそれで、というのだ。
「まだあるからな」
「だからですな」
「うむ、東国の動き次第でじゃ」
 信長も言う、既にその考えは次の戦のことに向けられている。
「風の如く戻らねばな」
「安土に」
「そうしてですな」
「武田、上杉と戦う」
 それぞれ天下最強と言われている両家と、というのだ。
「そうするぞ」
「はい、では」
「その時は」
 家臣達も応える、そしてだった。
 信長は水に囲まれてしまった高松城を見た、今はその城を見ても笑ってはいなかった。そうしてであった。
 囲みの守りを厳重にしそうしてだった、毛利の軍勢を寄せ付けず。
 城を囲み続けていた、それは毛利の軍勢も同じだった。
 元就は織田家の陣を見てだ、苦い顔で言った。
「これではな」
「最早、ですな」
「陣を攻めることはですな」
「うむ、出来ぬ」 
 最早それは無理になったというのだ。
「これではな」
「では高松城は」
「このまま、ですか」
「水の中に沈みますか」
「そうなりますか」
「なるであろうな、そうなればな」
 高松城が水の中に沈む、そうなればどうなるかというと。
「あの城の六千の兵は皆死ぬ」
「水の中に沈み」
「そうしてですな」
「勿論清水宗春もじゃ」
 城の将である彼もというのだ。
「城を墓とするわ」
「あれだけの御仁が、ですか」
「虚しく」
「しかもあの城を失えばな」
 水攻めで攻め滅ぼされれば、というのだ。
「備中も失いじゃ」
「織田家はそのままですな」
「一気に、ですな」
「備後も奪い」
「そして安芸に」
「そうなる、毛利の武名も落ちる」
 それまで傷付けられるというのだ。
「大きく削がれる」
「難しいですな」
「そうした状況ですか」
「このままでは」
「あと僅かで」
「こうなればな」
 どうすべきかとだ、元就は必死に考えてだ。
 そのうえでだ、五万の兵達にこう言った。
「攻められる状況ではないがな」
「それでもですな」
「ここは」
「どれだけ死のうともな」
 例えだ、そうなってもだというのだ。
「仕掛けるしかない」
「そして城の堤を被り」
「清水殿をお救いしますか」
「最早ここで何とかするしかないわ」
 元就はこう言いだ、そうしてだった。
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