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戦国異伝
第百九十一話 水攻めその八

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「織田軍は充分か」
「ですな、攻められませぬ」
「とてもです」
「進めば槍に貫かれます」
「刀で切ってもすぐに次が来ます」
「数は相変わらずです」
「ですから」
「全く、考えておるわ」
 元就は雨の中陣頭指揮を執りつつ歯噛みした。
「何処までもな」
「しかし殿」
「それでもですな」
「まだ、ですな」
「攻めますな」
「諦めるつもりはない」
 例えその長槍に防がれていてもだというのだ。
「まだな」
「でjは、ですな」
「このまま諦めずに攻め」
「そうしてですな」
「何としても」
「陣を破りじゃ」
 そして、というのだ。
「それからじゃ」
「堤を壊し」
「高松城を防ぎますな」
「そうする、何としてもな」
 絶対にというのだ。
「そうすればな」
「毛利の武門は今以上に上がり」
「和睦も有利になりますな」
「ですな、ここは」
「何としても」
「そうじゃ、攻めるのじゃ」
 多少の損害は覚悟してもだ、元就は攻めようとしていた。そうして何としてもだ、高松城を救おうとしていた。
 しかし織田家も長槍を突き立てて防ぐ、信長も陣に出て言うのだった。
「よいな、このままじゃ」
「はい、槍を前に出して」
「敵を寄せ付けないのですな」
「陣から出る必要はない」
 織田の軍勢は、というのだ。
「このまま守っていればよい」
「では陣から出てはですな」
「なりませんな」
「陣から出る者は斬る」
 こうまで言う信長だった。
「その者はすぐに斬れ」
「わかりました、では」
「このまま」
 織田の兵達も応えてだ、陣から出ずに。
 そのまま槍を立ててだ、戦い続けた。そうして。
 時が経ちだ、雨が止んだ時にだった。
 元就は空を見上げ晴れゆく空を見上げて兵達に言った。
「仕方ないわ」
「では、ですか」
「最早」
「うむ、下がれ」
 陣まで、というのだ。
「雨があがった、それではな」
「織田の鉄砲が来ますな」
「それに弓矢も」
「やがて来るわ」
 その鉄砲や弓矢がというのだ。
「だからじゃ」
「はい、では」
「ここは」
「陣まで下がる」
 そうするというのだ。
「わかったな」
「無念です」 
 兵の一人が言った。
「あの槍に負けました」
「そして数に」
「数は力じゃ」
 こうも言った元就だった。
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