裏切りの明け空
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からない。ただ、聞きたくなかった。尋ねたくなかった。
チクリ、と胸が痛んだ。自分は華琳の王佐だと言って貰えたのに、華琳の思考を読み切れないのが口惜しくて。
また、桂花の表情は暗く落ち込む。
「落ち込む事は無いわ、桂花。あなたは私の王佐。間違いなく一番の働きをしてくれた。道筋も、外部の動きも、献策も、読み取る事も……そして田豊と張コウの事も。ただ……最後に手に入れるモノについては別に一つある、というだけよ」
優しい声が耳によく響いた。気遣ってくれるのが嬉しくて歓喜が湧く。
しかし、思考をもう一度広く回してみるも、別の一つは思い浮かばない。
「風も、稟も、詠も……あなたでさえ読み切れなかった利が一つ。たった一つ手を加えるだけでこの乱世により多くの先手を打てる。さて……それが何か、分かるかしらね?」
試す視線に試す声。浮かべられた不敵な笑みは間違いなく覇王のモノ。また、ナニカを切り捨てるつもりなのだと、桂花は聡く読み取った。
――他に切り捨てるモノが……? 袁紹の死を追い掛けて顔良と文醜は死ぬかもしれない。明は……夕が死んだらどうなるか分からない。でもそれらは個人の問題だから違うとして……。
どれだけ回しても答えは出ない。
華琳に見えていて、桂花に見えていないモノが全く分からなかった。
ふ……とまた浅い息が漏れた。零れた笑みの意味は読み取れずとも、自分の知っている主の笑みでは無かった。
――華琳様はこんなに、柔らかく笑った事があっただろうか。
違う。違うのだ。自分が知っているどの華琳の笑みとも違う。自分達に向けるモノとも僅かに違う。
何を笑った? 誰を笑った? 考えれば、直ぐに思い浮かぶ。自分が離れていた間に変化があったのなら……あの男で間違いない。
「あの男が……華琳様の描くモノを読んだ、と?」
「ふふ……」
返す笑みには称賛を込めて。ただし、桂花に対してでは無かった。
「田豊を救えても救えなくても、あの男は大きくなるでしょう。今回だけは教えてあげる。アレと私がこの戦の後に何をしようとしているか」
馬を寄せ、楽しげに笑った華琳は言葉を紡ぐ。
つらつら、つらつらと並びたてられる一つの事柄に、桂花は目を見開き……震える。
自身の主の恐ろしさを再確認して。
そしてあの男の異常さを、本当の意味で思い知って。
――嗚呼……
身体の震えが止まらない。この世界に生きているが故に、桂花は華琳への恐怖が抑えられない。
――私の主は、人を外れている。そんな事、誰も思いつかないのに……。
大陸に生きるモノ達が希望を向ける英雄の姿は、一番近くに居るモノにとっては化け物。
だからこそ桂花が敬愛してやまず、身を、脳髄を刃と化して乱世を切り
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