第138話 蔡瑁
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っくり頷いた。
「あの男は危険過ぎます。荊州に戦火をもたらせるおつもりですか。叔母上、劉ヨウと対峙するということはあなただけの問題ではないのです。この荊州の民の行く末にも関わる大事」
張允は蔡瑁を厳しい眼で見つめた。蔡瑁は張允をしばらく凝視し立ち上がると部屋の入り口へと進んでいった。戸口につくと張允に背を向けたまま歩を止めた。
「秋佳、お前の考えよくわかった」
蔡瑁の姿を追っていた張允は蔡瑁の言葉に安堵の表情を浮かべた。
「叔母上」
「秋佳。劉ヨウがかくも危険な男であるなら荊州に滞在する間に殺さねばならないな」
蔡瑁は張允の言葉を制止し、背中越しに冷徹な低い声音で張允に語りかけた。張允は蔡瑁の意思表明に顔を引きつらせた。
「叔母上、何を言っているのです。劉ヨウの妻達は汝南袁家、蘆江周家、河内司馬家の出身ですぞ。劉ヨウを暗殺できても奴の妻達が弔い合戦を仕掛けてくるかもしれませんぞ」
張允は狼狽えながら蔡瑁に近づきながら悲鳴じみた声で言った。
「黙れっ!」
張允は蔡瑁の一喝に動きを止め、それ以上彼女は蔡瑁に近づかなかった。
「秋佳。お前はただ劉義姉上の庇護を受け惰眠を貪りたいだけであろう。お前が着ている服も。毎日食べる料理も誰のお陰だ? 皆私のお陰だ! お前のような小娘が私に意見するなど百年早い」
蔡瑁は矢継ぎ早に張允に怒鳴り終えると張允を睨みつけた。蔡瑁の剣幕に張允は気圧され黙った。
「劉義姉上が何故今の地位に座っていられると思う?」
唐突に蔡瑁は 凍りつくような視線を張允に向け質問した。張允は何も答えない。いや、蔡瑁のあまりの豹変振りに困惑している様に見えた。張允にとって普段の蔡瑁は理知的な姿しか見ていないのだろう。今も年の離れた妹が死んで錯乱しているだけと考えているのかもしれない。
「この私が歯向かう豪族どもをあの手この手で謀殺してきたからだ」
蔡瑁は張允が返事する前に話しはじめた。張允は表情を変えず蔡瑁の話を聞いていた。その表情から張允は蔡瑁が後ろ暗いことをしていることを承知していることがわかる。袁術の暗殺計画を知りえる立場である張允なら蔡瑁がしていることも大まかに理解していてもおかしくはない。
「劉義姉上は荊州に下向した時、我が蔡一族の力を頼った。あの時、我が一族が劉義姉上を下支えせねばどうなったであろうか。未だに州牧としての務めをこなせていたか疑わしい。そうなればお前が洛陽から都落ちもできなかったであろうな。劉義姉上の足場を固めたのはこの私だ。私が進んで手を血で汚し敵対勢力を排除してきたからに他ならない。劉義姉上は私を切れぬ。劉義姉上は聡い方だ。私を切ればどうなるか分かっている。その証拠に劉義姉上は襄陽に州都を移そうとお考えだ。わざ
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