第138話 蔡瑁
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仰っておりました」
泉は蔡瑁の質問に淡々と答えた。その間も蔡瑁は顔を上げることなく朱漆の箱を凝視していた。蔡瑁は一拍置いた後に口を開く。
「劉車騎将軍へお礼を申し上げます。明日、心ばかりの品を用意させていただきます。今宵は当家にてお寛ぎください。私は急に体調が優れなくなったので今宵の宴には参加できそうにありません。秋佳、あなたが満白寧殿を接待するのです。よいですね」
蔡瑁は顔を上げることなく張允に言った。
「叔母上、かしこまりました」
張允は蔡瑁に拱手して返事した。張允は蔡瑁の狼狽振りを一瞬だけ心配そうに見つめたが直ぐに泉の方に向き直った。
「満白寧殿、叔母よりあなたの接待役を仰せつかりました」
張允は手を叩き部屋の外から人を呼ぶと下女が部屋に入ってきた。その下女は泉に深々と頭を下げた。
「張允殿、お手数をおかけします」
「この者が部屋へ案内いたします」
泉は蔡瑁と張允に対して拱手して部屋を退出しようとした。
「使者殿。一つ聞いてもよろしいか?」
蔡瑁は部屋を退出する泉に声をかけた。それに泉は立ち止まり振り向く。
「劉車騎将軍はどのような御人ですか?」
「主は寛大な御方です」
蔡瑁は泉の返事に黙っていた。それを会話の終わりと判断した泉は再度拱手して部屋より退出した。張允は戸口に近づいていき耳を潜め泉が部屋から離れるのを確認した後、蔡瑁に駆け寄ってきた。
「叔母上、大丈夫ですか?」
「劉ヨウ、許さんぞ。お前だけは。お前だけは絶対に許さん!」
蔡瑁は視線を床に向け両手の拳を強く握りしめると怨嗟の言葉を吐いた。その表情は夜叉の如き凶相だった。
「叔母上、軽挙は控えられよ」
張允は蔡瑁に言った。その言葉に蔡瑁は顔を上げると張允を睨みつけた。
「倫陽を殺されて黙っていろというのか」
「我らに向うを非難できる道理はありません」
「道理など知ったことではない! 荊州では我ら蔡一族こそ法ぞ」
「感情的になされますな。劉ヨウの狙いは荊州ですぞ」
「どういうことだ?」
「叔母上、劉ヨウは劉叔母上でなく、我らに直接首を送りつけてきたのです。明らかな我らへの脅しです。もし、叔母上が劉ヨウに仕掛ければ奴は大手を振って荊州を蹂躙し我らに襲いかかってくるはずです。奴の望みは間違いなく我らとの戦いです。それに奴は華北に十五万の兵を養っております。これが袁術に合力すればどうなるか分かっていましょうな? 今回、劉ヨウが南陽にいたのはたまたまではないのかもしれませんぞ」
張允は強張った表情で蔡瑁に言った。蔡瑁の表情から血の気が一気に引いていくのが側からもわかった。
「十五万だと?」
蔡瑁は狼狽した表情で張允に言った。張允は蔡瑁にゆ
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