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Lirica(リリカ)
漂流民―水相におけるイグニスからネメス―
―3―
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き上がり、壁伝いに歩いて建物から出て行こうとする。
「一夜にして滅んだネメスの民は、皆体から塩を噴いて死んでいたという」
 女は無愛想に見物人に答えた。
「その記憶だろう。亡霊は屍という器がある限り、私がかけた術の残滓につき動かされ、ネメスに帰ろうとする筈だ。うまくいくかどうかは、わからんがな」
 ウラルタはぐっと奥歯を噛みしめて、死体の後を追った。死体は既に建物を出ていた。ひどい雨だった。強風に弄ばれながら、右によろめき、左によろめき、明かりのない細い道へ消えて行く。ウラルタも同じようによろめきながらついて行った。
 やがて細い水路に出た。死体は繋ぎ止められていた小舟に乗りロープを外す。ウラルタも町の床を蹴って、同じ小舟に乗った。
 小舟は雨と風に押し出されて、タイタスの水路を夕闇が濃くなる方へ突き進む。
 ウラルタは後ろを振り向いた。
 町の灯が、雨の膜の向こうに、既に遥かに遠い。



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