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Lirica(リリカ)
漂流民―水相におけるイグニスからネメス―
―3―
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蝋燭が陣を取り囲んでいる。死体の横にはローブで顔を隠した女が座りこんでいた。
 ウラルタは隣の男に尋ねた。
「何をするの?」
「亡霊を呼ぶんだとよ。とびきり古い奴をな」
 女は眉間に皺を寄せ、目を閉じてしきりに死体の顔の上で両手を動かしていた。何も起きなかったが、次第に額が疼き、耳鳴りがし始めた。それはウラルタだけではない様で、周囲の人間たちも額をこすったり、耳を抑えたりし始める。
 いきなり死体が上体を起こした。大人達がどよめき、ウラルタもたじろぐ。
「この者は滅びしネメスの大聖堂図書館の司書である」女が言った。「何でも尋ねてみろ。ただし、質問は三つまでだ」
 困惑するような静けさを挟んでから、誰かが口を開いた。
「何だってそんな古い時代の霊が今ここにいるって言うんだい」
 死体が目を開けた。白濁した眼球はどこも見てはいない。
「待っていた」
 亡霊は応える。
「今一度、(いにしえ)のネメスの歌劇場に灯が点り、全ての相より役者たちが(つど)おうとしている。この時を待っていた」
「ネメスの歌劇場なんてお伽噺じゃねえか」
 誰かが言う。
「全ての相より役者が集うったって、水相はもう相を跨ぐ事も、よそから来ることも、そう容易くはできないんだろ? 水相は全ての陸を失っちまった。かつて他の相に干渉しすぎた代償として」
「相を跨ぐのに必要な代償は陸ではない。時間だ」
 亡霊は淀みなく答えた。
「相とはすなわち、世界の中の、人間が現実として認識できる範囲。他の相へ渡るエネルギーを得る代償として、相は時間を支払う。水相とて例外ではない。時間を渉相術のエネルギーに変換し、その力で、現実として認知可能な領域を越えるのだ」
「では何故!」
 ウラルタは声をあげた。
「では何故、水相は陸地を失ったの?」
 死体は白濁した目をウラルタに向けた。
「蜂たちは諫言した」
 その声は、これまでよりも一層低く響いた。
「木もまた諫言した。我らネメスの司書も書記官も、そして一部の聖職者も、あの歌劇の上演を止めるよう諫言した。だが忌々しい、あの発相の……」
 声は小さくなり、ぶつぶつと呟くような調子になる。ウラルタは耳に意識を集中した。
「……月を欲するなかれ。全ての闇が打ち払われる日が来るなどと二度と思うなかれ。されどまだ、幻影に希望を求めるなら、覚悟せよ」
 死体の声が邪悪な響きを帯びたような気がして、ウラルタは体を強張らせた。
「覚悟せよ――」
 死体は元通り、床に仰向けに横たわった。その体の、皮膚が露出した部分に、白い粉が湧き始め、体を覆った。
「質問は三つまでだ」
 女は蝋燭を消し、片付け始める。見物人達は女の前に置かれた椀に硬貨を入れて、順次解散した。
「薄気味悪ぃ……何だ、この粉は」
 すると死体はむくりと起
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