第18話 青い春を生きる君たちへ
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た。このストラップになってから、スマホの回線の調子が良くなった。というより、前のストラップがついてた頃が調子悪かったのだ。恐らく、最初に高田がくれたストラップは発信機か何かで……電話の回線に干渉を起こしていたのだろう。田中が失踪してからすぐ、高田はあのストラップを自分にくれたので、割と最初から自分は疑われてたんだなと思うと、苦笑いが出てしまう。自分の周りで、高田の存在を示すモノは、今となってはこのストラップ1つとなってしまった。
田中と、高田が居た4ヶ月。特に最後の一ヶ月は、今でもあれは、夢の中の出来事だったのでは、という気がしてくる。自分が、人の生き死にに対してあんなに接近した事は、今まで無かった。自分に対して、慈母のような優しさを見せてくれた少女が、一方では無表情で誰かを撃ち殺すなんて、悪い冗談でしかない。ただ、そういう世界は、この世の中に確実に存在して。自分はそんな世界の端っこを、覗いてしまったのだろう。
自分はなんて、ちっぽけな存在だったのか。あの4ヶ月を過ごした後では、そういう感想が浮かんでくる。甲洋野球部で、たかが殴られる程度の恐怖に支配され、ガキ同士の裏切りを経験しただけで人間の深淵を覗いた気になっていたし、たかが甲子園の夢を断たれたくらいで、自分の人生は取り返しのつかない傷を負い、生きる価値を失ってしまったと、そんな風に思っていた。馬鹿らしい話だ。本気で命のやり取りをしていたあいつらでさえ、人間に絶望なんかしちゃあいなかったし、俺みたいな凡骨相手に、真摯に向き合ってくれてたというのに……
確かに、自分の青春は、キラキラと輝くような時間ではなく、ずっと暗く燻んだ色をしているのは確かだ。楽しいと思った事なんて、一度もない。明るい親友たちに囲まれる事も無ければ、甘ったるい言葉をかけ合い毎晩抱き合えるような恋人も居ない。
でも、それが何だと言うのだろう?
自らの命を使って、人を信じるという事について、本気で考える事を迫ってきた少年がいた。死に瀕する絶望の中で救いを差し伸べてくれ、誠実に自分に向き合い、温もりを与えてくれた少女が居た。正解ではないかもしれないが、自分の中での"答え"は、出来上がってきたような気がする。それらは全て、生きていく為に、かけがえの無い価値を持っているのだと……今は信じる事が出来る。
楽しくなければいけない訳じゃない。甘美じゃないといけない訳じゃない。青春は自分に、相応の価値ある事の数々を教えてくれている。その価値に気づかないとしたら、それは自分が気づこうとしていないからだ。楽しくなければいけない、キラキラしてないといけないと思って……それ以外の全てを、自ら捨て去ってしまっているからだ。無理に楽しくなろうとして、バカの振りをする必要はないし、楽しくないからといって、卑屈になる必要もない。人はそれぞれの
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