第18話 青い春を生きる君たちへ
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を撫でてやった。
「……初恋、だったんでしょ?……初恋は、実らないものよ。私も、そうだったわ」
「うっ……うぐっ……えぐっ……」
「我慢せず泣けば良いわ。……一年ちょっとの"高田紫穂"、お疲れ様」
彼女は、上戸の胸の中で、声を上げて泣いた。スーツを着込んだ彼女の胸の名札には、"遠沢"の苗字が記されていた。
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あの一夜から、もう数ヶ月が過ぎた。気を失った自分が次に目を覚ましたのは、自分の部屋のベッドの中で、血にまみれていたはずの衣服も、全てが綺麗なものに取り替えられていた。
田中は事故死した事になっており、メディアでもほんの僅かなスペースでその死が取り上げられただけで、ニュースの中心は、次々と検挙される日本赤軍の構成員の生い立ちや証言だった。彼らの大規模爆破テロを成功に導いた、協力者の名前など、全く出てこなかった。
田中が唐突に死んだ事について、学校ではそれなりに衝撃は走ったし、直前の一ヶ月間休んでいた事もあって、噂も色々と流れたが、真実と呼べるものは何一つとしてなく、その噂もそれほど長く続かなかった事こそが、超絶リア充なようでいて、その実誰とも親しくはなかった田中智樹という人間の在り方の真実を表していた。
高田が時期を同じくして学校を去った事は、田中が死んだ事の陰に隠れて、なおさら話題に上らなかった。同じクラスだった連中ですら、話題に上げなかったのだから、恐らくその事を気にかけていた奴はゼロに近かったのだろう。同じクラスから同時に2人も居なくなってしまったのに、その片割れの事は気にかけないなんて、いつも"人間"を娯楽としてる癖に、薄情なものだなと小倉は思う。高田の住んでいた部屋はもぬけの空で、人が住んでいた痕跡さえ見付けられない程に綺麗さっぱり掃除されていた。あれ以降、小倉は高田には会っていない。街でショートカットの小柄な少女を見るたび、顔を確認したりもしたが、どれも高田本人ではなかった。そんな事を繰り返す度、最後に聞いたサヨウナラ、その残響が頭の中を駆け巡るのだった。
春の日差しは、まだ気温が低く、肌寒い中にも、温もりというものがある事を教えてくれる。駅のベンチに腰掛けながら、小倉は晴れ渡った青空を見上げた。この陽射し……まるで、あいつのようだな、と感慨にふける。見た目は冷たくて、態度もそっけない癖に、でもどこか、温かかったな……
スマホがブル、と震えたので、画面を確認してみる。つまらないメルマガの着信だった。拍子抜けしながら小倉は、スマホについているイルカのストラップを手にとってみる。高田が誕生日プレゼントにくれたものとは、色が違っていた。高田と最後に別れてから目を覚ますと、これがついていたのだっ
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