第18話 青い春を生きる君たちへ
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としながら尋ね返した。
「それは……私じゃないといけない、そんな任務ですか?」
「いいえ?……ま、気を効かせたつもりなんだけどね」
上戸の言わんとしている事は十分、分かっていた。それが自分の気持ちへの気遣いだという事も分かる。しかし、高田はその気遣いに甘えたくは無かった。
「……出来る事なら、彼とはもう、これっきりにしたいんです。監視をつけるのであれば……できるなら、私以外の誰かで……」
「……勿体無いわね。どうして、そんなに彼と距離を置きたいのかしら?」
「……辛くなってしまいます。私と彼との間には、越えられない壁があると、側に居ると余計に、痛感させられるんです。どこまで行っても、私は彼に、自分の全てを晒す訳にはいかないから……」
「……そう……」
上戸は社長イスからゆっくりと立ち上がった。高田に背を向けて、壁にかけてある絵画に目をやる。その絵は、つい最近新しくここに飾られたもので、西洋画だらけの部屋の中で異彩を放っていた。『和漢百物語』の、「頓欲ノ婆々」のレプリカ……そのおどろおどろしい武者絵を眺めながら、上戸は語る。
「……確かにね、あなたは立場上、一般人である彼にね、あなたの全てを教えてあげる事はできないし、全てを理解してもらうなんてできないわ。……でもね、そもそも、人間は100%、わかり合う事なんてできないのよ。例え状況がそれを許していたとしても、人間そのものの資質のせいで、私達は、お互いに全てをわかり合うなんて、できないわけ。最初から、個人と個人の間には、絶対に越えられない壁があるのよ」
「…………」
「分かり合えない部分だけ、欠如だけを問題にしていたら、キリが無いわ。例え部分的にでも、分かり合える所があるなら、相手が自分を分かってくれるなら……その幸せをね、まず噛みしめるべきなのよ。加点法で考えなさいよ。50点は、50点の"減点"じゃない……50点の、"得点"なの。……私の言ってること、分かるかしら?」
上戸は、高田の方を振り返った。その表情は、母親が娘を教え諭すような、そんな寛容さと、そして……自分もこうだったな、という懐かしさに満ちていた。
「……まぁ、こういう考え方自体が諦めで、オバさんの考え方なんだけどね。私もあなたくらいの歳には、完璧を求めたものだわ。私が今ここで、何を語った所で、仕方がないわね。こういうのは、自分の人生を必死に生きて、傷ついて、そうしてやっと、分かってくる事だから」
「……すいませんッ……」
知らず知らずのうちに、高田は涙を流していた。上司の前で、みっともない、情けない、恥ずかしい。色々自制するような事を考えても、涙は止まってくれなかった。目頭を押さえて嗚咽を漏らす高田に、上戸はそっと歩み寄り、小柄な身体をその胸に抱いて、頭
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