第18話 青い春を生きる君たちへ
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んじゃないかしら」
「は、ありがとうございます」
市ヶ谷の穴ぐらの、上戸の部屋は相変わらず紅茶の匂いが充満していて、久しぶりにそこに入った高田は思わず苦笑いを浮かべてしまった。この前と少し匂いが変わったようだが、マリアージュ・フレールはもう切らしたのだろうか。そんな事を考えたが、わざわざ口に出すのは止めておいた。上戸はこと紅茶の話になると、話が長いのだ。
お気に入りのティーカップに、厚く艶やかな唇をつけて啜りながら、上戸は高田の書いた報告書に目を通していた。ページをめくる手の動きがやたらめったら速いので、真面目に読んでいないようにも見えるが、それでいて、誤字脱字やフォーマットのミスについては一字一句に至るまで目ざとく見つけ出してくるので、恐ろしい人だ、と高田は思う。キチンと文字を追って読んで、このスピードなのだ。
最後のページまで読み終わった上戸は、ティーカップをデスクの上においた。横に投げ出して組んでいた長いしなやかな足をデスクの中に収め、デスクの前で直立不動の姿勢をとっている高田に正面から向き直る。
「一つ、質問良いかしら?」
「はい」
「田中智樹の協力者……小倉謙之介に対しての処置、どうするか書かれてないんだけど」
デスクの上で両手を組み、やや顔を斜めに傾けながら尋ねてくる上戸は、やや高田を試しているような、そんな態度であった。高田は大きく息を吸い込み、更に背筋を伸ばして、毅然とその問いに答えた。
「……彼とは、司法取引が成立しています」
「へえ。……どんな条件で?」
「彼には、田中智樹の所在に繋がる情報を得ました。その見返りに、爆弾設置など破壊工作や、公安当局の捜査の撹乱など、田中智樹への協力行為を全て不問にするという、そういう条件です」
「……へえ、それは……随分と彼に有利な条件だこと」
上戸の目が、一瞬キッときつく細められる。射抜かれるような視線に、高田は思わず目を逸らしそうになったが、何とか踏みとどまって、その顔を睨み返した。次の瞬間、上戸は、さっきの顔つきが嘘のような、温和な微笑みを浮かべていた。
「良いわよ。あなたに全て任せると言ったのは、私だもの……あなたは、そういうやり方で、彼を守ったのね」
「……ありがとうございます」
魂胆はお見通しか……高田は、少しバツの悪い気分になる。しかし同時に、それを許してくれた上戸の寛容さに感謝した。自分のわがままを聞いてくれた、この恐ろしく、それでいて優しい上司に。
「……でもねえ、そもそも"無かったこと"のはずの、この事件に、部分的に関わってしまってるからねえ……監視くらいは、つけとくべきかしら?」
上戸の悪戯っぽい視線は、言葉以外の何かを伝えている。それを敏感に感じ取った高田は、視線を落
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