第一章
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かしこの時にまたあの相手の兵士を見たのだった。
「またあいつか」
この時もこう思うだけだった。何とも思わず山登りをはじめようとした。しかしその時だった。
「おい」
「おい!?」
向こうから声がかかってきた。それを聞いて顔を彼に向けた。
「何処に行くんだ?」
「何処って。山登りだよ」
とにかく何もなくいるのも彼等だけだったのでこう言葉を返した。何しろお互い軍服こそ着ているが銃もヘルメットさえも身に着けてはいない。そんな姿だったから警戒もしてはいなかったのだ。
「今日はそれで時間を潰すんだ」
「山登りでか」
コシュートはそれを聞いて何か考える顔を見せていた。距離はお互いの顔までわかる距離だった。見れば向こうは平凡な顔をしている。自分も人のことは言えないことは自覚している。
「そうさ、今日はそれだ」
「そうか、そうするのか」
彼はそれを聞いて納得したようであった。しかし納得しただけで終わらせはしなかったのだった。
「なあ」
またアルフレッドに声をかけてきた。
「何だ?」
「一人で行くのか?」
こう尋ねてきたのであった。
「その山登り。一人か?」
「そうさ、一人さ」
答えながら何を決まりきったことをと思った。何しろこの国でここにいるのは彼だけなのだ。他には誰もいないのだから。
「それがどうしたんだ?」
「なあ、提案なんだが」
「提案?」
「実は俺も山登りをしようと考えていたんだ」
奇遇であった。彼もそれを考えていたというのだ。
「だからな。相談なんだが」
「相談?俺とか」
敵の兵士に何を言っている、内心そうも思ったが何しろここは他に誰もいないしまた誰からも見られていない、見捨てられた場所だ。だから敵という意識はあまりなかったので彼の話も聞くのだった。
「そうさ。一緒にどうだい?」
こう彼に声をかけてきたのだった。
「一緒にか」
「どうせ一人なんだろ?」
コシュートは誘いをかけてきていた。それはアルフレッドにもわかった。しかし敵と味方というお互いの立場がそれを拒もうという考えに向けていたのだった。アルフレッドに関してはそうである。
「だったら。どうだい?」
「敵同士でか」
「それは戦場でのことだけだろ?」
これがコシュートの考えだった。気さくに笑ってアルフレッドに告げるのだった。
「だったら関係ないじゃないか。ここじゃ戦争なんて起こっていないんだしな」
「それはそうだけれどな」
「だったらいいじゃないか。いるのは俺達だけだ」
それを言う。紛れもない事実だ。だからのどかであるのだ。二人だけでお互い何も干渉しないのならば。平和とは実に簡単に手に入れられるのである。
「だったら。別にいいだろ」
「一緒に何かしてもか」
「上官も誰もいない」
そもそも
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