2部分:第二章
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第二章
「しかも風は」
「強いです。それに」
コーチは今度は風の方向も見た。それは。
「ホームからライトですか」
「右で引っ張りの強いあいつが派手に打つと」
風のその強さと向きをバッターの傾向と合わせる。
「センターにですか」
「少なくとも切れない」
ファールにはならないということである。
「尚且つあちらにとっては追い風だ」
「下手をすればスタンドですか」
「そうなったら終わりだぞ」
彼は言う。
「一点差でランナーが二人いる」
「長打でも逆転ですな」
「勝負強いあいつだしな。しかもだ」
頭から出て来るデータはまだあった。今度はこちら側のエースについてだ。
「あいつはうちで一番頼りになる奴だがな」
「あのバッターとの相性は悪かったですね」
「ずっとな。今シーズンだけじゃなくな」
ここでこれが言われた。
「ホームランもよく打たれていたな」
「大体三割以上は軽く打たれていますね」
野球ではかなり打たれていることになる。このデータが出て来て彼はまたその表情を暗く険しいものにさせるのであった。そうして次の言葉を出した。
「勝負できると思うか?」
「勝負ですか」
「あいつであのバッターにだ」
それをコーチに対して問うたのである。
「そこはどう思うんだ?」
「あいつはどう考えているでしょうね」
コーチはそれに答えずエースの方を見た。エースはまだこちらを見ていた。マウンドの上から。
「勝負したいでしょうかね」
「確実にな。そうだな」
彼はそれもわかっていた。こっちのエースの性格もはっきりとわかっていたのだ。
「しかしな。勝たなければいけないんだ」
「この試合は」
「そうだ。だからここは」
そして遂に決断を下したのであった。
「敬遠だ」
彼の下した決断はそれであった。
「次のバッターで勝負するぞ。いいな」
「敬遠ですか」
「そうだ」
コーチに対してはっきりと答えた。
「ここで打たれたら終わりだ。だからこそ」
敬遠のサインを出した。それを見たエースの顔が見る見るうちに険しくなる。彼を睨んでさえいた。彼にもそれははっきりとわかっている。だがそれでも平気な顔をしていた。
「いいんですね、これで」
「ああ」
コーチに対してもはっきりと答える。
「これでいい」
「あいつは俺を信じていないのかって顔をしていますよ」
「信じているさ」
だが彼はこう答えるのだった。
「信じているからだ。次のバッターで勝負だ」
「次のバッターは確実に抑えられるからですか」
「そういうことだ。信じているから全ての勝負を任せるんじゃない」
彼の言葉であった。
「いざって時はそれを避けるものだ。信じているのならな」
「信じていればこそですか」
「信じていると
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