第17話 俺とあいつと彼女の最期
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とだった。田中は、目だけが浮き上がったようなグロテスクな顔、血に汚れた汚い顔に、最後微笑みを作った。一ヶ月前の、端正だった頃の面影が、その微笑みから伺えるように、小倉には思えた。そして、田中は自分から目を閉じる。自ら、その人生に幕を下ろすかのように。
小倉が握っていた田中の手から、僅かに残っていた温もりがスーッと抜けていく。魂、というものが、可視的なものなら、夜空へと登っていくそれを、確認する事が出来ただろうか。
小倉は黙って田中を看取った。フロアには、嗚咽だけが響いた。
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小倉が田中の手を放し、凝固しつつある血だまりに手をついたまま動かずにいると、背後からコツ、コツという足音が近づいてきた。その足音は小倉のすぐ側まで来て立ち止まり、聞き覚えのある声が上から降ってきた。
「ごめんなさい、ね……」
高田の声は、いつもと違って幾分掠れているように聞こえた。小倉は微動だにせず、その声に応える。
「何で謝るんだよ……お前は、約束を守ってくれたじゃないか。ちゃんと二人で話をさせてくれたろ?」
「…………」
「ただ、できる事なら教えて欲しい……どうしてこいつ、殺されなきゃならなかったんだ?どうしてお前は……こいつを殺さなきゃならなかったんだ?」
小倉はゆっくりと立ち上がり、高田の方を振り返った。月明かりに照らされた高田のシャープな顔つきは、今までに比べ一層美しく、そして……寂しげなように、小倉には見えた。高田は、朝見せたような、葛藤を抱えた表情……俯き、唇を噛む表情をまた見せた。そしてゆっくりと、口を開いた。
「……詳しい事は、あなたには教えてあげられないわ。でも、彼自身の非道な行いが、この立場を招いた訳じゃない事は言っておく……彼自身も被害者という部分はあるのよ」
「……そうか……」
小倉と高田の間を、ひゅう、と風が吹き抜ける。どうやら、ただの高校生である自分には、どうしても立ち入れない所があるらしい。分かっていた事だ。それを無理に聞き出そうとして、高田を困らせる気も小倉には無かった。
「……ごめんなさい」
「……また、謝るのか」
「ええ。……私、嘘をついたから」
高田はバツの悪そうな顔をして、視線を横に逸らした。
「実は2人がここに来た時からずっと、監視してたの。私、どうしても、田中くんを始末しなきゃいけなかったから。厳密には、あなた達2人きりじゃなかったのよ。私は、最初から守れそうもない約束をしたわ。だから、ごめんなさい」
高田は小倉に頭を下げた。小倉はそれを聞いて、やや力が抜けた。最初から、万事休してたって事か。ここにやって来た時点で、田中が
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