第17話 俺とあいつと彼女の最期
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よ。俺がこうなる事は決まってたんだ。むしろ、今日まで余計に生き延びたのさ。逃亡劇なんて、茶番だよ。愛の実験の為のね……」
「……何を……何を言ってやがるんだ!……何が愛の実験だよ……そもそも何で俺に、そこまで構う気になったんだ……」
死にゆく田中は、特に残念に思うような顔もしておらず、実に穏やかだった。最初から、こうなる運命を受け入れていたかのようである。この一ヶ月間の逃避行自体が、愛の実験を実行する為だけのものだと、田中は暴露した。小倉はますます分からなくなる。何故田中は、そこまで愛の実験とやらに拘ったのか……
「……ほら、謙之介、色々諦めてそうだったからさ」
「……は?」
「色々あったんだろ、甲洋でさ……人を信じるって事に臆病で、何かこう、人間を諦めてる所があったからさ……俺の残りの命使って、もう一度信じる事について……人間について考えて欲しかった」
「……」
「俺はろくでもない人間だけど、たった1人の人間の、きっかけにくらいなってやれると思ったんだ……唯一の、友人の為の、きっかけくらいなら……」
田中の口から、ドッと血が溢れた。血だまりは大きく広がって、その場に膝をついた小倉の足にも浸透してきている。田中の手を小倉は握った。カサカサして、やや骨が浮いたような手は、びっくりするほど冷たかった。
「……今まで無理を言ったね。俺の言う通りに行動してくれる度、俺は嬉しかったよ。俺の言う無茶にさ、ここまで付き合ってくれる奴が居るって事、ただそれだけで嬉しかった……子どもの時、一緒に悪戯した友達……そんな感じがして、懐かしくもあった……人をいくらか死なせておいて、こんな言い草もないけどね……」
「……田中ァ……すまん……」
小倉の目からは、気づかないうちに涙が流れ出していた。正直言って、ここに来るまでは、田中の事なんて自分を巻き込む厄介者としか思っておらず、その指示に今まで従ったのも、特段田中への、それこそ愛があった訳じゃない。しかし田中は、自分に対して、何かをしてやろうと、何かを残そうと、そういう気持ちだけで今まで行動していたのだった。自分がひどく不誠実な人間に思える。現実的には、どの指示も唐突に過ぎて、なおかつ規範からも逸脱したようなものばかりなんだから、あの愛の実験とやらから、田中の自分に対する気持ちを読み取るなんて不可能だ。厄介者に思って当たり前だ。でも今は……その気持ちに全く気づいてやれなかった事が、何故か悔しい。
「……もう、そろそろだ…………俺の事、忘れないでくれよ…………そして、この一ヶ月で感じたこと、これからの人生に生かして欲しい……そうだ、生きるんだ……謙之介、俺の分まで、ね」
「…………」
小倉は、その言葉に対して、涙と鼻水でクシャクシャにした顔で頷くのがやっ
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