第17話 俺とあいつと彼女の最期
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だ。多少強引なやり口を使ってでも、君を行動に駆り立てて良かったよ」
「……満足したか?じゃあ、早く言えよ。俺が今からすべき事。この状況から逃れる為に、しなきゃいけない事を……」
また急かした小倉に、田中は少し呆れたようなため息をついた。しかし、その表情は穏やかな微笑みのまま。小倉はその顔を見て、ハッとした。その表情には、今までに無かったモノが読み取れる。
それは、諦め。
「……何もないよ」
「……えっ?」
「謙之介に、最後にやってほしかった事はね、もう済んだんだよ」
小倉は、身体からサッと、血の気が引くのを感じた。まさか田中は、さっきのつまらない問答をする為だけに、俺をここに呼んだと言うのか?自分を追っている高田に自分の場所を教えてまで、それをやろうとしたのか?そして、もう何も指示はない……もうすぐ高田はここにやってくる……田中にとっては絶対絶命のはずだが、その状況を切り抜ける策は何もないという事だ!
「……お、おい!田中!お前……」
「今までありがとう、謙之介。後は……キチンと俺を、看取ってくれるかい?」
ゲッソリとした田中の微笑み。血相を変え、血走った目でその微笑みを睨む小倉。対照的な表情の二人の視線が触れ合い、次の瞬間。
バンッ!
拓州会の事務所で幾度となく聞いた、破裂音がフロアに響き。
田中は痩せ細った身体のその胸に、赤黒い血の華をパッと咲かせて崩れ落ちた。
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「……田中ぁぁあああああああ」
小倉は一瞬立ち竦むが、すぐにバネに弾かれたように駆け出して、倒れた田中の側に向かう。仰向けに、大の字に倒れた田中は、埃っぽいフロアに早くも血だまりを作っていた。田中の傍に膝をついた小倉は、その上半身を抱き上げた。肩甲骨の浮いた身体は軽く、血の温もりとヌメりが小倉の服に染み渡り、田中の体臭は血生臭さと相まって吐き気を催しそうな程だったが、そんな事も構わず、小倉は田中を抱いた。
「……致命傷だよ。どこに連れてっても無駄さ。そっとしておいてくれよ」
口の端からも血を流しながら、田中は言った。小倉もその言葉に、手が止まる。ここまでの大量出血、到底長くは保たないだろうし、追われる身の田中を、どこの病院にも連れていく事も出来はしない。勿論、自分に治す事など出来るはずもないし、万事休した事を理解した小倉は、田中の身体をそっと床に横たえた。
「……バカ……どうしてだよ……今まで何とか逃げ延びてきたんじゃないのか……俺が昨日ヤクザの事務所行ったのも、お前の追っ手を減らす為じゃなかったのかよ…………どうしてこんな……死に急ぐような事したんだ……」
「……それは違う
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