第17話 俺とあいつと彼女の最期
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小倉の言葉を聞く。その真摯な態度に引っ張られるように、小倉は言葉を紡いでいく。
「けどな……最後、高田に対しては……少し違った。俺と田中との繋がりを分かっていながら、俺を拘束して拷問して吐かせるとか、手荒な手段には出なかった。それぐらい、あいつには簡単にできたはずなのに……。俺を安心させる為に、一晩中抱いていてくれた。……そんな事、田中の情報吐かせる為に必要な事でも何でもないだろ。お前の命がかかってる事だ、俺は一生懸命、高田を疑ってみようとした……見極めようとした……でもな、何故か……高田は俺と、個人として向き合ってくれてるはずだって。そう信じる理由ばかりが、俺の頭には浮かんできた……」
自分を組織の代行者だと、高田がドライに規定しているなら、その目的の為に手段を選ぶ必要は無かったはずだった。そして、小倉の言葉に、自分自身が悩む必要もない。お前と交渉する気なんかないと、機械的に答えれば良かったはずだ。まさか、人を殺すのをあっさりと許すような高田の組織とやらが、自分のような高校生たかが1人と対等な関係で話を進めるような流儀を持っているはずがあるまい。しかし、高田は、小倉が出した交換条件に葛藤し、躊躇しながらも、それに応じてくれた。その結果として、小倉と田中、二人だけの時間が今ここに生まれている。高田は、個人で小倉に向き合い、そして交わした約束を守った。
「……理屈で考えて、高田が約束を守ってくれる保証なんて無かった。高田に、俺を田中と引き合わせる事で得られる利益なんて何もないはずだ。でも……俺は高田を信じたくなった。信じる根拠なんて、ともすれば思い込みレベルの、しょうもないモンだったけど……信じたくなった。信じるって事は、疑わない事じゃない。疑って、疑って、それでもなお、信じようと腹をくくること……こいつになら、裏切られても良い、それも含めて自分の責任だ……そんな風に覚悟を持つことだ。それこそが、無上の信頼で、愛なんじゃないか……」
自分を抱きしめてくれた高田の温もり。交換条件を迫った時に目を逸らし、唇を噛んで、自分で答えを出そうと悩んでいた、その葛藤の表情、個人に個人として向き合ってくれた誠実さ……それらは全て、小倉が見たいように見て、解釈したいように解釈しただけかもしれない、根拠にするにはとても心許ないものだった。しかし小倉は、信じた。信じたかったからだ。小倉は自分の意思で、自分の責任でそれを信じた。
田中は、ふっと力の抜けた微笑みをやつれた顔にたたえた。それは、親が子を見ているような、穏やかな表情で……その両手は、小倉を讃える拍手を打ち鳴らした。
「さすがだよ。……俺の考えともピタリ一致した。この愛の実験は、謙之介の中に確実に、一つの成果を残した。思想というのは、自分の人生の実感から生まれ出ずるもの
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