第17話 俺とあいつと彼女の最期
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いや、ダメだ。まずはそれからやらないと。大丈夫、俺はちゃんと状況は分かってる。そして最善の決断をするさ。これまでも、そうだっただろ?」
小倉とは対照に、田中は何故か、余裕たっぷりに立っていた。ここまでやつれている癖に、どうしてこんなに背筋を伸ばして優雅に立っていられるのか、見ていると不思議に思えてくるくらいで、小倉は自分だけが焦っているのがどこかアホらしく感じた。どちらにしろ、田中に指示を出してもらわなければ、自分は動くことができない。小倉は諦めて、田中の下らない問答に付き合う事にした。そうせざるを得なかった。
「……まず、前提の確認から始めよう。俺は、愛というのは、相手を信じる事だと思ってる。それは、分かってるね?」
「……ああ、分かってる」
「だから、俺はずっと、謙之介の、俺への信頼を試すような課題を与え続けた。その課題を、今日に至るまで謙之介はクリアし続けた。これは、間違いないね?」
「ああ、そうだ……」
「終わってみて、どう?愛というものについて、何か実感は持てたかい?君にとっての愛は、どういうものかな?説明してみてよ」
細かいステップを踏む事なく、その大きな問いは投げかけられた。日常生活の中で、こんな事を聞かれても、誰も説明はできないだろう。カップルの高校生なら、????の時に愛を感じるとか何とか、具体的なシーンを思い浮かべる程度ならできるかもしれない。しかし、それではお前の感じる愛とは何ぞやと言われた時に、説明できる奴がどれほど居るか。恐らく、そうそう居ないだろう。そもそも説明なんか必要がない、と突っぱねるだろう。説明など必要な段階でおかしい、それを自然と感じられないお前はどこか狂ってる……そうやって、それぞれが好き勝手に"感じた"、つまりは自分の愛と他人の愛が同一の愛である保証など無いまま、ただ愛の幻想だけが一人歩きして大きくなっていく……
この愛の実験は、そうやって有耶無耶になりがちな愛を、ひとまず定義して、その定義に従った行動を繰り返す事で、それの妥当性を測る、そういう実験だった。日常から離れ、当たり前が当たり前でなくなる中、状況は小倉に、何かを教えた。その何かを小倉は今、言葉にする。
「……お前、最初の時、こうも言ってたよな?信じる事はある意味、覚悟だって……」
「ああ。言ったねえ」
「それだけは本当に、思い知らされた……お前が何度も何度も言ったように、疑いだしたらきりがない……信じない理由を探すのは、信じる理由を探すのより、100倍も簡単だ……俺はずっと、お前を見殺しにしちまうのが怖くて、見殺しにするくらいなら、自分が死んだ方がマシだって……ただそれだけで従ってたようなもんだった……そんなもんは、とても信頼と呼べない」
田中は朗らかで、それでいて真剣な、不思議な面持ちで
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