第17話 俺とあいつと彼女の最期
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「……田中……お前……」
小倉は、田中を見て、しばし言葉を失った。端正な顔の頬はこけ、目だけがギロリとして爛々と輝いている。髪はガサガサと艶を失っており、着ている服は埃まみれで、さっきからツンとした匂いが鼻を突くが、それが田中から流れてくるものだという事に気付くにはそれほど長い時間はかからなかった。
ホットライン、もしくは電話越しに聞こえる田中の声は、飄々として、明るくて、いつも通りの人を食ったような声だった。マイクの向こうには、いつもと変わらぬ田中が居るはずだと、よく考えもせずに小倉は思っていた。自分が神経を擦り減らす中で、こいつは高みに登って自分を観察し、呑気なものだと、田中を恨めしく思っていた。しかし、この変わり果てた姿はどうだ?……小倉は、自分の想像力の無さを思い知らされた。たかが声が元気だとくらいで、判断していいものではなかった。こいつは……田中は、ずっと自分を脅かす存在から、逃げ回り続けていたのだ。消耗しないはずがないではないか。すり減らないはずがないではないか。自分なんかより、ずっとずっと、こいつは辛い思いも苦しい思いもしてきたに違いない……その事を推察すると、自分がひどく薄情だったように思われて、小倉は言葉を出すことができないのであった。
「あれ?紫穂は?」
ゲッソリとした顔で、田中は笑顔を見せた。その屈託のない笑顔の作り方は、まさに田中そのもので、それを見た小倉はようやく我に帰る。
「……ま、待ってもらってんだ。今はまだ高田は居ない。俺とお前の二人だけだよ」
「ああ、そうなんだ」
「はっ、早く言えよ!俺にして欲しいこと!今がチャンスなんだぞ!じきに高田は来る!そしたらお前は終わりだ!早く、早く手を打たねえと……」
小倉は田中を急かした。小倉が高田に、田中と二人だけの時間を要求したのは、これが狙いだった。田中は、どうしても自分にやって欲しい事があると言っていた。その事は高田には言ってない。田中が自分にやって欲しい事とは、田中が生き延びる為に必要な何かだろうと小倉は踏んでいた。その何かを、この時間のうちに遂行する事ができれば……高田の裏切りなんて、あり得ない事を期待せずとも、状況を切り抜けられるかもしれない。高田としても、組織を裏切らなくて済むだろう。自分達に出し抜かれたという事なら、良くは思われないだろうが、努力の結果してやられたのだと、言い訳も立つだろう。ここまで考えた上で、切迫感たっぷりに迫る小倉に対して、田中はまた、ニカっと笑った。
「……なるほどね。……でも、まずは愛の実験の答え合わせから始めようよ」
「バカか!そんなふざけた事言ってる場合かよ!早く俺に指示を出s……」
「
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