第四章
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第四章
「似たような話があがっていますな」
「出港の時に艦橋に多くの鳥が止まったそうだな」
「ええ」
こうしたこともあったというのだ。
「そして皇后陛下の枕元には」
「有り得ぬ」
山県はこう言いながら首を横に振った。
「この様なことはな。有り得ぬ筈だ」
「白い兵士達にしろそうです」
今二人はその報告書を読んでいるのだ。しかもそれは一つや二つではないのだった。実に多くのその将兵達に対する報告書が届いていたのだ。
「これだけの報告があがるとは」
「こんなことははじめてだ」
山県はまた言う。
「京でも戊辰の役でも」
彼等は幕末から多くの戦いを経てきた。それは京の都での新撰組を相手にしたものもあり戊辰戦争でも多くの激戦があった。山県とてそれは同じなのだ。
「そして西南でも先の戦争でもな」
「この様なことはありませんでした」
「うむ」
先の戦争とは日清戦争のことである。この戦争もまた日本にとっては未曾有の国難であったのだ。だが日露戦争はそれ以上の国難であったのだ。
「何故だ。この様なことが続けて起こるのは」
「何かあるのでしょうか」
「神仏の御加護か」
山県は腕を組んで呟いた。
「これは」
「神仏のですか」
「これだけ不可思議なことが起こっている」
現実的なことで知られている山県とは思えない言葉であった。この言葉には桂も内心かなり驚いているがそれは隠していた。
「そうとしか考えられんのではないのか」
「確かにこの戦争は我が国にとっては未曾有の国難」
国の中枢にいる彼等が最もよくわかっていることだった。とりわけ山県は開戦間際までその決意を迷っていたのである。勝てるとはとても思えなかったのだ。
「それが為か」
「神仏が我々を守護していると」
「だから白い兵達が現われた」
山県はこのことをまだ言う。
「違うか」
「我が国を救っているというのでしょうか」
「わしはそう思う」
今一つ確信が持てない顔であったがそれでも言う山県であった。
「どうかはわからんが」
「そうですか」
「少なくともこのことは事実だ」
「はい」
山県も桂もそれは否定しなかった。できなかったと言ってもいい。
「確かに」
「このことは記録として残しておくべきか」
「残しておくのはよいのですが」
それには賛成する桂であったが。
「信じられるかというと」
「それは別だ。だがな」
「わかりました。それでは」
事実は事実であった。それならば報告として残しておくしかない。山県も桂も今はそれを選んだのであった。
このことは日露戦争における数多い伝説として言われている。本当にこの様なことがあったのかというと疑問だと言わざるを得ない。しかし多くの目撃談がありそのうえ彼等に助けられた日本軍の
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