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戦国異伝
第百九十一話 水攻めその六

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「ここはです」
「雨も厭わず攻め」
「高松城を掬いましょう」
「そしてじゃな」
「これで毛利の武門の名はあがります」
「そしてじゃな」
「その時にこそです」
 まさに、というのだ。
「和議を結ぶ時です」
「そう思うからこそか」
「攻めましょう」
「それがしもそう思います」
「それがしもです」
 元春と隆景も長兄に続いて父に言う。
「高松城を救わなければ」
「水攻めには出来ませぬ」
「ですからここは」
「何としても」
「皆そう言うか」
 ここまでだ。元就も聞いてだった。彼はあらためてこう言った。
「わかった、ではな」
「はい、それでは」
「ここは」
「攻めるとしよう」
 これが元就の断だった。
「雨が止むまで待とうとも思ったがな」
「雨です、ですから」
 今度は元春が言う。
「織田の数多い鉄砲もです」
「今はじゃな」
「使えませぬ」
 火蓋が濡れてしまうからだ、鉄砲も雨では使えないのだ。
「弓矢も水で重くなり」
「上手に使えぬな」
「後は槍と数です」
 恐れるものは、というのだ。
「それに気をつければ」
「織田の守りを突破してじゃな」
「堤を壊すこともです」 
 それもだというのだ。
「出来まする」
「それでじゃな」
「はい、攻めましょうぞ」
 隆元の言う通りにというのだ。
「是非共」
「ではじゃ」
 ここまで聞いてだ、元就は今度は毛利の家臣達にも言った。
「これより織田を攻めるぞ」
「そうしてですな」
「堤まで達し」
「堤を壊す」
 織田家が築いたそれをというのだ。
「そうして高松城を救うぞ、よいな」
「はっ、それでは」
「今より」
 家臣達も応えてだ、そうしてだった。
 毛利の五万の軍勢は元就自らの指揮を受けてそのうえで陣を出て大雨の中織田軍に向かった。その動きはすぐに信長にも伝わった。
 その話を聞いてだ、信長はすぐに言った。
「来たか、考えてみればな」
「毛利も必死ですし」
「このことはですな」
「充分考えられたわ」
 至って落ち着いての言葉だった。
「皆に然程酒を飲ませずにいてよかった」
「では、ですな」
「これより」
「皆の者、ここはじゃ」
 信長は立ち上がって言った。
「陣を守りじゃ」
「はい、毛利をですね」
「あの軍勢を」
「押し返すのじゃ」
 絶対にというのだ。
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