第百九十一話 水攻めその三
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「よいな」
「それは何故ですか」
「何故堤を築かせてはならぬのですか」
「囲みを崩せというのならわかりますが」
「それは何故」
「まさかそうして来るとはな」
危機を察している顔で言う清水だった。
「織田信長、恐ろしい男じゃ」
「あの、それで何故」
「何故敵は堤を築いておるのでしょうか」
「そしてそれを築かせてはならぬ訳は」
「どういうことでしょうか」
「すぐにわかる」
今すぐにというのだ。
「築かれればな」
「その時にですか」
「そうじゃ、とにかくじゃ」
今はというのだ。
「よいな、兵を繰り出すぞ」
「それでは」
「今より」
こうしてだった、清水は城から兵を出して織田家の軍勢が築かんとしている堤を崩そうとした、だがそれは。
織田軍はその鉄砲と弓矢で寄せ付けない、自ら陣頭に立ち采配を振るう清水もそれを見て苦い顔で言った。
「駄目じゃ、これでは」
「堤に近付けませぬ」
「とても」
「うむ、無理じゃ」
到底というのだ。
「諦めるしかない」
「それではですか」
「ここは」
「城に下がり」
「そのうえで」
「籠城を続けるしかない」
こう言ってだ、実際に。
清水は止むを得ず兵を城に下がらせた、そして堤は築かれ。
堤が築かれた次の日にはだ、早速だった。
大雨が降った、信長はその大雨を本陣で受けつつだった。
家臣達を集め酒を飲ませだ、自身は茶を飲みつつ笑って言った。
「雨の宴も風流じゃ。それに」
「高松の城がですな」
「これで、ですな」
「そうじゃ、水に覆われてじゃ」
そうしてというのだ。
「陥ちる寸前になる」
「これで、ですな」
「なりますな」
「そしてじゃ」
そのうえでというのだ。
「毛利との戦もな」
「それもですな」
「これで」
「勝ったわ」
会心の笑みでの言葉だった。
「見事にな」
「ではこの雨は」
「我等にとっての救いの雨でしたか」
「そうなりますか」
「そうじゃ、どのみち雨は降ったがな」
梅雨だ、それならば数日中に降ることは間違いない。
「しかしな」
「今降ったことで、ですな」
「我等に天が味方してくれましたか」
「そうなったわ」
まさに、というのだ。
「これで数日中に毛利から話が来る」
「講和の話が」
「それが」
「そうなる、もっともその前にな」
信長はさらに読んで言う。
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