第一章
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け旅順ではそうであった。
「それのせいで思うように進めず」
「損害も増えていくか」
「ですが道はあそこしかありませぬ」
伊吹少佐はまた苦渋に満ちた顔を見せた。
「ですが。そこには」
「敵もわかっておるのだ」
言うまでもなくロシア軍のことだ。
「全てな。だからこそあそこに機関銃を集中的に配備しておるのだ」
「大砲を呼びますか」
「残念だがそれは無理だ」
熊谷大佐がすぐに苦い言葉で応えてきた。
「忌々しいがな」
「別の戦線にですか」
「そうだ。戦場はここだけではない」
理由はそれであった。戦いは一つの戦場でだけ行われるものではないのだ。当然彼等が戦っているこの場所以外でも戦闘は行われているのだ。
「そちらに回されておる。だから」
「こちらには無理というわけですね」
「そうだ。だからだ」
忌々しげに敵陣を見る。土塁や障害物を前に置きその陰から機関銃を放っている。その機関銃が火を噴く度に日本軍の将兵達が倒れていく。二人はそれを実に忌々しげに見ているのであった。
「これ以上損害を出すわけにはいかん」
「はい」
「戦闘継続不可能になってしまう。しかしだ」
「あの敵陣を突破しなければなりません」
パラドックスであった。突破出来ない敵陣を何としても突破しなければならない。このパラドックスは戦争においてはよくあることだが今の彼等がまさにそうであったのだ。
「何としても」
「せめて援軍でもいればな」
大佐は溜息をつきかけた。危うく。
「言っても無駄だがな」
「援軍ですか」
「それもやはり別の戦線だ」
「左様ですか」
「兵がない」
これは日本軍全体がそうだった。日本軍は動員できるだけの兵力、調達できるだけの武器や弾薬を使って戦っていたのだ。しかし大国ロシアを相手にしてはやはり劣っている。その劣勢を士気と戦術、将兵それぞれの戦闘力と気迫でカバーしていた。だがそれでも限界があるのであった。
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