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駄目親父としっかり娘の珍道中
第5部
紅桜編
第66話 初めて使うキャラは大概扱いに苦労する
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 闇夜を照らす月の光―――
 それはとても幻想的な光であり、また同時に、どこか不気味な輝きを放つもの。
 かつて電気の無かった時代、人々を照らしたのは火の他に月の光であった。
 月の光は誰にでも分け隔てなく光を注ぐ。太陽の光をその身に受け、受けた光を人々に照らすのだ。
 そう、誰に対してもだ。例え、それがどんな悪人であろうとも。それがどんな心の荒んだ人間であろうとも。
 月は、分け隔てなく光を注ぐ。
 ただ、注ぐだけなのだ。




     ***




 夜の江戸を一人歩くのは危険な行為だ。そう言われたのは何時からだっただろうか。
 江戸の町内にて夜な夜な辻斬りが横行するようになったのは今に始まった事ではない。
 侍にとって魂とも呼ばれている刀。だがそれは、使い方次第で人を殺す凶器へとなり替わる。それを行う者達を人々は辻斬りと呼んでいた。
 辻斬りの理由は様々だ。新調した刀の試し切り、人を切る快感に支配され手頃な獲物を求めた、むしゃくしゃしてやった、その他諸々……
 とにかく、辻斬りの理由としては碌な理由がない。どんな理由があろうともそれは殺人なのだから。侍として恥ずべき行為である。
 そう思いながら桂小太郎は一人小さな橋の上を歩いていた。
 攘夷志士である彼は真昼間の往来を堂々と出歩く訳にはいかない。彼はお尋ね者なのだから。だから夜な夜なこうして傘を頭に被り素顔を隠して町を歩いている。別に歩き回る必要はないのだが彼自身も江戸の身を案じている身の上。辻斬りが横行し江戸の治安が乱れている現状を見て見ぬ振りなど出来ないのであろう。
 ならば、自らの手でその辻斬りを成敗してしまおう。そう思い立ちこうして夜な夜な出歩いていたのだ。弱き者を切る事しか出来ない辻斬り程度になら負ける筈はない。
 彼自身剣の腕は立つ方であった、例え不意打ちをしようともその程度の相手に遅れを取る筈がない。
 そう思っていたのだ。
 
「ちょいとお尋ねして良いかい?」

 背後から声がした。男の声だった。何処か人を食ったような神経を逆なでされてるようないけ好かない声だった。
 だが、声に不信感を抱く前に桂は疑問に思った。
 つい先ほどまでここには誰も居なかった筈。気配も感じなかったのに何時の間に後ろに?
 
「あんた、噂の桂小太郎さんかい?」
「人違いだろう。もし、俺がその桂小太郎だったなら、こんな往来を堂々と出歩いたりする筈があるまい」

 言葉を返しつつ、桂の脳内ではこの場をどう切り抜けるか考えていた。音もなく背後に近づく所を見るにこいつは相当の手練れだ。幸いなのは相手が不意打ちをせずに自らの存在を明るみにしてくれた事。だが、相手は今自分の背後に立っている。そいつが今刀を抜いているのかすら分からない。もし抜いてい
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