第三十六話 蘇る魔法使い
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まったが、賢は怯まず口を開いた。
賢「高石君に質問。英雄とは何だい?」
タケル「は?」
唐突な質問にタケルは怒りを忘れて目を見開いた。
賢「一般的なイメージだと、英雄は大きな力を持っていて、真っ直ぐで一点の曇りもない完璧な存在といった所かな?」
タケル「…そりゃあ、誰からも一目置かれて、強くて、絵に描いたような正義の味方ってイメージがあるけど…」
賢「そう…」
目を伏せ、暫く黙った。
次に眼を開けた時、賢の瞳は陰っているように見えた。
しかし、何故だかそれを問い質すには躊躇いが生まれた。
賢「……確かに大輔は強いし、性格も面白いくらい熱血で真っ直ぐ。けれど、大輔も所詮は人間。万能じゃない」
タケル「……何が言いたいの?」
タケルが尋ねると、賢はスッと立ち上がり、空き缶を捨てる。
賢「大輔も、勿論僕も君も…人は皆、暗い部分を抱えている。あの大輔だって、暗い部分が表に出る時は驚くくらい冷静な時がある。ただ、自分でそれに気付いていないだけ。大輔の嫌いな言葉を知っているかい?」
タケル「…知らない」
タケルは首を横に振った。
賢は笑い、空を見据えながら言う。
賢「…正義」
タケル「は?」
タケルの呆けた表情すら、賢の想像の範疇だったらしいく、溜め息混じりに薄く笑った。
賢「大輔は正義という言葉が嫌いなんだよ。向こうで色々なもの見てきたからね。自分のやり方、思想を正義という大義名分の元、押し付けるようなことを嫌う…正義が嫌いなんて英雄にあるまじき性格だよね」
タケル「正義……」
賢「大輔はこうも言ってたよ。“正義なんてものは、簡単に成立しちゃうから…だから、正義がどうだとかいう前に…一番大切なことは…自分が自分の思う最善の選択をしているか否かだと。自分が正義だっていう奴は、絶対に許さない。それも、俺の最善の答え。正義は人の判断じゃ決められないんだ”…ってね。でもそれが大輔という人間。受け入れろとは言わない。けれど知っていて欲しい。大輔はそういう人で、そういう存在。君達や世界の評価がどうであれね」
賢はそれだけ言うとこの場を後にした。
タケルは急激に大輔と自分達の距離が遠ざかったような気がした。
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