誕生と幼年期
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からは体力作りのための運動と発声練習、アルツールからはヴァイオリンをはじめとした楽器全般と音楽の知識を教え込まれた。この二人とも既婚者で、自分の家を継ぐ後継ぎもいるのだが、この甥には彼らの子供と同程度の熱心さで教え込んだ。
先ず成果が出たのはカールの教育で、式部武官に向いているかどうかは少々不明であったが、張りのある大きな声がでるようになり、普段の食生活と相まってしっかりとした体つきになり、体力もついた。その一方、アルツールによる教育は知識の面では成果を収めたが、実技の面では芳しくなかった。アルツールの評価によれば“形にはなっているのでそれなりに聞いていられるレベル”とのことである。
当主であるシュテファンと母親のマリー、そして伯爵家の家臣からは、帝国とリスナー伯爵家の歴史、それと帝国貴族に必要とされる諸作法や常識を教え込まれた。シュテファンは貴族の作法にとどまらず、帝国軍における作法やある程度の基本もエンゲルベルトに教え込んだ。それによりエンゲルベルトはある程度自分の進路を察した。親子の間で暗黙の了解のように理解されていることだった。
エンゲルベルトの貴族社交界御披露目は帝国歴四六二年の一月十日、彼が九歳のころであった。新無憂宮の黒真珠の間で開催された新年の祝賀会においてであり、そこで多くの貴族諸家も彼らの子弟の披露を行った。エンゲルベルトは両親とともに各方面への挨拶回りをし、そのあとは壁の花となって若い、食べ盛りの食欲を満たすことに専念していた。また彼はその宴会中ずっと仏頂面で、彼の両親を苦笑させた。
エンゲルベルトは、やがて始まったダンスの相手の誘いが来ないことにも動じなかった。その年に似つかない仏頂面で敬遠されていたのもあるが、彼はそんなものはどこ吹く風といった感じで音楽に耳を傾け、宮廷お抱えのオーケストラの光景を眺めていた。
「あの、ダンスの相手をしてもらえないでしょうか…」
すると、少し戸惑ったような声で、彼に後ろから声が掛けられた。振り向いたその先にいたのは、エンゲルベルトと同じぐらいの年の小柄な少女だった。彼女は艶のある長い黒髪を青いリボンで縛り、控えめだが品のある桃色のドレスを着ていた。誘いを受けた方は、このまま一回も踊らないのも対面が悪いと考えて、少女の手を取った。エンゲルベルトも少女も、貴族の備えるべき作法の一つとして、ダンスは教え込まれていた。公式の場で踊るのは初めてとあってエンゲルベルトは少々動きが固かったが、それは相手も同じことだった。
演奏が終わると、別れる前に少女に名前を問われた。エンゲルベルトの返しに少女はこう答えた。
「私はヘルダーリン伯爵家のエレオノーレと申します。以後お見知りおきを」
エンゲルベルトはそれに礼儀通りに返し、その場を離れた。
彼がこの宴会にて踊った相手はこの少女、エレオノーレ・
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