道化師が繋ぐモノ
[7/15]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
矢の数では助からない。間違いなく絶命している。
さらさらと流れる黒髪が、その兵士の下から見えた。小さな身体が、ソレに守られているんだろう。そうなのだ。そうに違いない。
だって……バカ共はずっと守ってるのだから。大切な大切な夕を守って戦っているのだから。
「おい」
剣を振りながら掛けられたモノは冷たい冷たい黒の声。答えることなんか、してやんない。
無事なのだから、しっかりと敵を殺さないと。目の前のモノをクソ袋に変えないと。そして逃げて……あの子と二人で、あたしと同じ秋兄のとこで欲張りな人生を過ごすんだ。そうして死ぬまで生きるんだ。
異質な音が聴こえて首を傾けると、額を狙った矢が通り過ぎる。見やると、愉悦と達成感に満ちていた敵の表情が驚愕に変わる。これくらい避けれるに決まってるだろうに。
あんな木の上に敵が居たのか。それなら、一番強いバカが殺されるのも頷ける。夕を守り抜いて死ぬのも、頷ける。
「あはっ……死ね」
引き裂かれた口のカタチはきっと三日月型。思いっ切り手を振り抜いて投げた分銅が木の上の敵にぶち当たる。落ちる寸前で枝にぶら下がった敵は、落ちまいと必死に足掻いて無様だった。
秋兄も、落ちていた敵の槍を投げてもう一人を落とした。即座に、後列のバカ共がそいつを串刺しにしていた。何度も、何度も、憎しみを込めて槍で突き刺していた。
あたしはバカ共に、今回ばかりは連携重視だと、言っておいたはずなのに。
「おい。なんであの状況で……他の奴等が田豊を守ってやがらねぇんだ? 近づいてすらいやがらねぇんだ?」
一閃……振り抜かれた秋兄の長剣は一人の敵の腕を切り捨てた。
知らない。聞こえない。
バカ共はあたしを信じているから、真名を預けられた大バカ野郎を信じてるから動かないだけなんだ。
秋兄のそんな声なんか聴きたくもない。そんな……昏い変な感情が混ざり込んだ声なんか。あたしにナニカを教えようとする声なんか。
「……くひっ……野郎共! 御頭の復讐は果たしたぞ! ああ、ああ、満足だぁ! もう俺は死ぬしかねぇからよ、置いて逃げてくれて構わねえ!」
ぶら下がってた奴が下卑た声を張り上げた。
何を言ってる? お前らはただの敵なんだ。口を閉じて、そのまま死ねばいい。
秋兄に倣って槍を投げれば……
「ぐがっ!」
「大当たりーってね♪」
見事に口に命中。口は閉じられなくなったけど、これでもうあいつは喋れない。ああ、死んだから喋れないのは当然か。
何故か、敵が一目散に逃げ出した。まだ、お前らは仕事を終えてないだろうに。
何故か、バカ共の多くがその背を追って行った。あたしが目の前に居るというのに、命令を待たずに、涙を零しながら追っていった。
――なんで?
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ